年金制度大改革 損↓得↑徹底検証 #1Photo:PIXTA

基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドの適用期間を一致させ、基礎年金の底上げを図る案が厚生労働省で検討されている。改正されれば若い世代は受取額が増加するが、高齢者世代は受取額が減少する。非正規雇用の多い氷河期世代のためにも基礎年金の底上げは重要だが、財政負担の増加をどう判断するか。特集『年金制度大改革 損↓得↑を徹底検証』(全10回)の#1では、適用期間一致に伴う受取額の変化、世代による受取額の損得勘定を提示する。(ダイヤモンド編集部 竹田孝洋)

氷河期世代の老後保障のために
必要な年金の底上げ策

 日本経済の“失われた30年”のしわ寄せを最も受けたのは氷河期世代だろう。

 バブル崩壊後、企業が採用を絞ったことで正社員の職に就けない人たちが多く生まれた。そのため、年齢を重ねても低い収入しか得られない人がいる。

 現役時代の収入が低い、あるいは正社員ではなく非正規の職でいることは、実は老後の年金額の低さにつながる。そうした事態を回避するために現在、検討されている年金制度改革案がある。

 その案とは、厚生年金の報酬比例部分と基礎年金のマクロ経済スライドの適用期間を一致させるというものだ。

 こう書いても、よく分からない人は多いだろう。案の中身を説明するために、以下で公的年金制度の仕組みから説明していく。

 民間企業のサラリーマンや公務員が加入し、受け取る厚生年金は、二つに分けることができる。それは年金受給者全員に共通の基礎年金と、現役時代に収めた保険料の額によって決まる報酬比例部分である。

 一方、自営業者やフリーランス、非正規雇用の人たちが入るのが国民年金。受け取るのは基礎年金のみである。

 厚生年金の報酬比例部分と基礎年金のマクロ経済スライドの適用期間の一致は、2024年の財政検証を受けて打ち出された年金制度改革の柱の一つだ。

 公的年金は賃金上昇率や物価上昇率の変動に合わせて額を増減させるが、マクロ経済スライドは、平均寿命の延びや公的年金の加入者数の増減に合わせて年金額の伸びを抑制する仕組みである。

 厚生年金、国民年金共に100年後にも年金給付額1年分の積立金が残るように、今後の給付をマクロ経済スライドで減少させることになっている。

 04年の年金制度改革で自公政権が打ち出した「100年安心年金」の下、5年ごとの財政検証で公的年金制度は100年後まで持続できるかどうかを診断される。財政検証では幾つかの経済前提のケースに基づいて年金財政の試算をする。

 次ページでは、24年の財政検証における公的年金の試算結果を取り上げ、マクロ経済スライドの適用期間の一致が受取額に与える影響を分析する。