
低収入で貯金もない就職氷河期世代は今後どうすればいいのか。特集『大企業が賃金を収奪!「階級社会」の不幸』の#7では、「ニート」問題に光を当て、政府の氷河期世代支援にも参画した東京大学の玄田有史教授に、現実解を聞いた。(聞き手・ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
低賃金は氷河期世代の責任ではない
日本企業の転換期の負の側面の影響
――これまでの就職氷河期世代対策をどう見ていますか。
政府は2020年度から5年間、氷河期世代対策に重点的に取り組み、私も構成員を務めました。批判もあるでしょうが、不本意非正規雇用労働者は大きく減り、正社員比率では前の世代との差がほぼなくなっています。
「氷河期世代は多くがずっとフリーターのままで貧困にあえいでいる」という言説は根拠に欠けます。ただ、正社員比率は改善したものの、収入面は厳しいという指摘はその通りです。
――氷河期世代の収入が上がらないのはなぜでしょうか。
今の賃金には過去の積み重ねが反映されます。そして氷河期世代は、若い頃に教育訓練を受けた感覚が乏しい人が多い。労働が自らの蓄積になったという実感がなく、使い捨てられたという意識を持っています。
中高年の賃金が上がるのは、積み重ねの経験があってこそ。実際、1990年代までは、企業が社員を手厚く育てる日本的雇用が年功的な賃金につながりました。その後、企業が即戦力路線へと転換して非正規雇用で急場をしのぎ、誰も若者の面倒を見なくなった。その付けが今回ってきているのです。低賃金は、氷河期世代の責任ではなく、日本企業の転換期の負の側面の影響です。
もう一点、最近は企業が1人の社員に支払う賃金が、薄く長くへと変わっています。かつて定年は55歳でしたが今は60歳が主流で、65歳までの再雇用も普及しました。65歳まで雇うとなると、賃金の支払いスケジュールが変わり、賃金カーブが押し下げられているのです。