減量薬で膨張する米貿易赤字Photo:Bloomberg/gettyimages

 アイルランドから米国に向かう航空機が今年ひっきりなしに運んでいるものは、金(ゴールド)よりも価値があると言える。それは人気の肥満症・糖尿病治療薬に使われるホルモン剤で、米国の輸入額は4月時点で360億ドル(約5兆2500億円)に達した。

 この金額はすでに、米国が昨年1年間にアイルランドから輸入した額の2倍を超える。関税対応の在庫積み増しと減量薬の需要増という、二つの強力な要因が重なった結果だ。

 ペプチドやタンパク質をベースとしたこうしたホルモン剤は、絶大な人気の「GLP-1受容体作動薬」や、「インスリンアナログ」と呼ばれる新たなタイプのインスリン製剤に使われる。米国の貿易データによると、出荷された重量は合計で2万3400ポンド(約10.6トン)程度で、テスラの「サイバートラック」4台分に満たない。

 温度管理された航空貨物コンテナで運ばれるこうした医薬品原料は、米国の貿易収支に大きな影響を及ぼしており、1~4月にアイルランドから輸入した財(710億ドル)の約半分を占めた。米国の国別の財貿易赤字額は、人口わずか540万人のアイルランドが中国に次ぐ2位となっている。

 米国の税関記録によると、これら輸入品のほぼ100%がインディアナ州を最終仕向け地としていた。肥満症や糖尿病の治療薬である「ゼップバウンド」と「マンジャロ」を手掛ける米製薬大手イーライリリーは州都のインディアナポリスに本社を置いている。

 イーライリリーの広報担当者はコメントを控えた。

 ドナルド・トランプ米大統領が繰り広げる貿易戦争は世界の貿易の構図を塗り替え、同氏が解消を目指す貿易不均衡を一部では少なくとも一時的に拡大させる結果を招いている。

 米政権は4月2日に広範な関税措置を発表した。発表を前に世界各地の企業の間では米国への出荷を前倒しする動きが活発化し、ホワイトハウスが一部の関税の発動を一時停止した後も前倒しは続いた。