
梅雨から夏にかけての時期は、気温と湿度が高くなり、食中毒のリスクが高まる。感染後に全身が動かなくなる難病を引き起こし、回復まで1年近くかかる事例もあるという。身近な食材の危険個所と予防法について、ジャーナリストの笹井恵里子氏が徹底取材した。(ジャーナリスト 笹井恵里子)
高温多湿の時期は
食中毒が発生しやすい
高温多湿の時期は、腸管出血性大腸菌O157などの細菌による食中毒が発生しやすい。それもあらゆる食品中に繁殖する恐れがある。危険箇所と対策を徹底取材した。菌に感染し、難病を発生した事例も紹介する。
食中毒の原因としては「細菌」「ウイルス」「寄生虫」「自然毒」「化学物質」があり、年間を通して起きる危険がある。だが梅雨時期と夏に注意喚起されることが多いのは、湿度や気温が高いため「細菌性食中毒」の発生件数が増加する傾向にあるからだ。ちなみに秋はきのこや山菜などの自然毒、冬はノロウイルスによる食中毒が起こりやすい。
健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は、「例えば病原性大腸菌O157は室温によって数十分の間に2倍に増えることがわかっています」と説明する。
「食中毒を防ぐ基本は、細菌を付けない(よく洗う、まな板など別々に使う)、増やさない(早く調理して食べる、冷蔵する)、やっつける(75℃上の加熱、消毒する)こと。細菌は食品を買ったときから保存中、調理前、調理中、食事中、食後、後片付けまで、さまざまなシーンで付着・増殖している可能性があります。特に温度管理が必要な生鮮食品などを購入する際は、買い物の最後にし、購入したら寄り道しないですぐに持ち帰り、冷蔵庫に保存しましょう。そして菌をやっつける手段は、主に十分な加熱です」
加熱不十分な鶏肉で
手足が麻痺する難病に
食品の中心部の温度が75℃以上で、1分間以上の加熱――それが一般的には食中毒菌が死ぬ目安とされている(「熱に強い菌」もいるのだが、それは後述する)。
肉を調理する際に気をつけたいのは、特に鶏の腸に食中毒の原因菌である「カンピロバクター」が常在している点だ。カンピロバクターは加熱調理で殺菌可能だが、加熱不十分な肉を食べると感染し、感染から数週間後に「ギラン・バレー症候群」という難病を引き起こすこともある。ウイルスや細菌による感染をきっかけに筋肉を動かす運動神経が障害され、手足のまひなどの症状が起きるというから恐ろしい。
リハビリ病院などで栄養指導を行う日本臨床栄養協会評議員で管理栄養士の遠藤惠子氏は、これを発症した患者に時折出会うという。