板野友美さんも被害に…生魚の寄生虫「アニサキス」の対策法と最新研究事情写真はイメージです Photo:PIXTA

すしや刺身など、日本食には生魚を使った料理があります。本稿では、日本人には身近なアニサキスの生態や食中毒を起こさないための知識、最新の研究事情を紹介します。

※本稿は、茜灯里『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋・編集したものです。

芸能人もアニサキスで食中毒に

 魚介類の調理方法は豊富ですが、日本では、すしや刺身といった魚介類を生で食べる料理も人気です。けれど生食は、適切な処理を施さないと食中毒を起こす場合があります。酢で締めただけでは安心できない場合もあります。

 国民栄誉賞を受賞した往年の名俳優の故・森繁久彌さん、お笑いタレントの渡辺直美さん、元バレーボール全日本代表選手の益子直美さん、元AKB48の板野友美さんらが罹患してニュースになった「アニサキス症」も、サバ、イカ、カツオなどに見られる寄生虫が原因の食中毒です。生魚を食べる習慣のある日本人には身近なアニサキスについて、生活環や食中毒を起こさないための知識、最新の研究事情を概観しましょう。

幼虫がいる魚を生で食べると発症

 2022年6月に罹患した板野さんは、YouTubeに「激痛に襲われ緊急で病院に行くことになりました」と題した動画を投稿しました。激しい胃痛で病院に行くと、最初は十二指腸潰瘍と診断されて薬を処方されます。けれど薬は効かず、夜も眠れないほどの痛みが続くために再度病院へ。2日前に寿司を食べたことを告げると内視鏡検査(胃カメラ)をすることになり、アニサキスが1匹発見されます。胃からアニサキスを引っ張って除去する時も、「激イタ」で大変だったそうです。

 食中毒の原因となるアニサキスは、正確にはアニサキスの幼虫です。長さ2~3センチ、幅0.5~1ミリの白色・糸状の見た目で、肉眼で確認できます。日本近海だけでも約160種の魚介類に寄生することが知られており、魚介類が死亡すると幼虫が内臓から筋肉に移動します。

 アニサキスは、(1)卵が海を漂う、(2)海中で孵化してオキアミなどに食べられる、(3)オキアミを食べた中間宿主(サバ、イカ、カツオなどの魚介類)に幼虫の状態で寄生する、(4)中間宿主を食べた終宿主(イルカ、クジラなどの海洋哺乳類)の体内で成虫となり産卵する、(5)終宿主の糞便で海中に卵が放出される、という一生を送ります。

 人がアニサキスの幼虫がいる魚介類を生で食べると、幼虫が胃壁や腸壁に頭部を潜入させて激しい腹痛を引き起こしたり、アレルギー反応を起こしたりすることがあります。