1996年に大阪の小学校で発生した大規模な集団食中毒事件では、児童3人が死亡した。これを契機に学校給食は衛生面で厳格さが求められるようになり、やがてNASAが開発した衛生管理システムが導入されたという。宇宙食レベルの安全性を誇る給食の今に迫った。※本稿は、松丸 奨『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。
給食メニューに地域差がある背景
過去の「O-157」食中毒事件への反省
みなさんは給食で「冷やし中華」や「冷やしうどん」など、冷たい麺類を食べたことがありますか?
「夏の定番だった」と答える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、私の勤務する東京・文京区の学校では冷たい麺類の提供は禁止されています。その理由は「温度を下げる(冷ます)間に食中毒のリスクがある」というものです。
給食について「そんな給食のメニュー、自分の地域では出なかった」「私の学校ではよく出ていたよ」という話で盛り上がることがありますが、その地域差は、自治体の定める安全基準の差に起因している場合もあるのです。
ある小学校のサバから腸炎ビブリオという食中毒菌が検出された場合、その自治体内の学校すべてでサバの使用が少なくとも数年は禁止になる、ということがよくあります。たとえ契約している水産加工業者が違っていたとしても、「念のために」というわけです。
川や道路を挟んだだけの近い距離であっても、県境や市境など行政区分が違えば「東側の地域は給食でサバが出る」「西側の地域では出ない」という一見不可解な現象が起こるのは、このような理由からです。
給食で「食の安全」をここまで厳格に考えるようになった背景には、過去の集団食中毒事件への反省があります。
なかでも契機となったのは平成8(1996)年。ご記憶の方も多いかもしれませんが、夏から秋にかけて、腸管出血性大腸菌O-157による集団食中毒が岡山県や岐阜県など各地で起きました。
そして7月、大阪府堺市の小学校で大規模な集団食中毒が発生したのです(堺市学童集団下痢症事件)。
児童7892人を含む9523人が感染し、3人の児童が死亡します。併発した溶血性尿毒症症候群(HUS)による後遺症が残った児童も多数に及びました。
19年後の平成27(2015)年には、事件当時小学1年生でHUSを発症した女性が、後遺症により亡くなっています。O-157による集団感染としては世界に類を見ない規模の事件となってしまいました。
汚染源・汚染経路の特定はできなかったものの、厚生省(当時)の対策本部は「給食に含まれていた非加熱の野菜がもっとも可能性が高いと考えられる」と発表しました。事件とこの調査結果は、消費者による生野菜の買い控えを引き起こし、大きな社会問題となりました。