「中国の豚が4億頭を超えた」→その理由がとんでもなかった
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

「中国の豚が4億頭を超えた」→その理由がとんでもなかったPhoto: Adobe Stock

中国と豚の意外な関係とは?

 中国は1979年に一人っ子政策を採用しました。これは増え続ける人口を支えるだけの食料供給量が得られないという危惧からでした。一人っ子政策によって人口増加は鈍化したものの、近年の経済成長にともなって生活水準は向上。1人当たりのカロリー供給量と脂肪供給量は増加傾向にあります。

肉類、乳製品の輸入が急増!

 下記グラフは、中国の1人当たりのカロリー供給量、脂肪供給量、タンパク質供給量の推移を表したものです。1990年を100としています。

「中国の豚が4億頭を超えた」→その理由がとんでもなかった出典:『経済は地理から学べ【全面改訂版】』

 およそ30年間で、カロリーは1.4倍、脂肪は1.8倍、タンパク質は2.0倍になりました。そのため、現在の中国における食料の安定供給は、その重要性を増しています。中国の農林水産物貿易の推移のグラフを見ると、2007年までは黒字でしたが、2008年から現在に至るまで大幅な赤字に転じています。動物性生産品の輸入超過がその主な原因です。

 1995年から2023年にかけての輸入額を、1995年を100とした場合、肉類2万7412、乳製品・卵1万2049、水産物1万3163となっています。

 他にも、穀物609、野菜・果実1万3554、家畜用飼料1986、動植物性油脂類649となっていますので、中国人の食生活が変化したことは間違いないでしょう。

中国は世界一の養豚国。ということは?

 ここでは中国の大豆に焦点を当てます。中国の大豆生産は、ブラジル、アメリカ合衆国、アルゼンチンのトップ3には及ばないものの、世界第4位を誇り、世界的に生産量の多い国です。

 しかし大豆は、2000年以降、輸入超過が続いています。中国の農林水産物貿易の輸入超過の要因の1つです。1990年からの30年間で大豆の生産量はおよそ1.8倍に増加しましたが、大豆の国内供給量はおよそ10倍にまでふくれあがっています。

 もちろん、これは輸入量が激増したことを意味しています。この間の中国の経済成長は、皆さんもご存じの通りです。一般的に生活水準が向上すると食生活が向上し、肉類や油脂類の消費量が増えます。中国は肉類の輸入量が激増したことは先に述べましたが、もちろん国内生産量も増加しました。

 意外と知られていませんが、中国の豚の飼育頭数は、世界合計の46.2%を占めています。世界に豚が1000頭いるとすれば、中国だけで462頭いる計算です。その数は4億5656万頭。他にも、牛が6123万頭(世界4位)、羊が1億9403万頭(世界1位)、ヤギが1億3224万頭(世界2位)、鶏が51億8548万羽(世界1位)と世界的な畜産国となっています。そのために飼料としても大豆需要が増大します。

「中国の豚が4億頭を超えた」→その理由がとんでもなかった出典:『経済は地理から学べ【全面改訂版】』

 また、食用油の需要の増加も、原料としての大豆需要を押し上げているのです。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)