いま、ビジネスパーソンの間で「AI」が急速に浸透している。自分の代わりに仕事をやらせるだけでなく、一部ではAIに問い、AIと対話して仕事を進めることが、すでに当たり前になりつつある。実際、AIをうまく使いこなせば、問題解決やアイデア発想といった「考える」作業においても大いに役立ち、悩む時間を圧倒的に短縮できる。
ただし、闇雲に使えばいいわけではない。「AIから有益な回答を引き出すには、適切な“聞き方”が必要です」。そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に発想や思考の研修をしてきた石井力重氏だ。その数々のノウハウをAIで実践する方法をまとめたのが、書籍『AIを使って考えるための全技術』。「鈍器のような存在感に圧倒される」「AI回答の質が目に見えて変わった」と、発売直後から話題に。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も全面監修として協力した同書から、AIを使って「99%の悩みに解決策を示せる」聞き方を紹介しよう。

技術的ブレイクスルーを整理した発想法集「TRIZ」
世界中の創造的な知のストック、それが「特許」です。そのなかには技術的なブレイクスルーが記載されています。
「そのエッセンスを集めてきてパターン化したら創造的な思考を助ける道具になるのでは」と考えたのが、かつて冷戦中のロシア(当時はソビエト連邦)の研究者、ゲンリッヒ・アルトシュラーです。
とても素朴で王道な考えです。しかしながら膨大な特許のなかからパターンを抽出するのは作業量も膨大になりますし、パターンが適切な数に収まるのかも見当がつかなかったと思います。ですが、彼は実際にそれに取り組み、「TRIZ(トゥリーズ)」というメソッド要素の強い学問体系を作ります。
TRIZは技術的な課題の「99%」を解決できる
結果として、技術的ブレイクスルーのパターンとして40個を抽出しました。それらを用いると、およそ世の中の技術課題の99%強に対して何らかの解決策が見いだせると言われています。残る1%弱は最高位のイノベーションで、世紀の大発明と位置づけられるものであると結論づけています。
全発想法のなかで、TRIZは「発想トリガー法」と呼ばれるタイプに分類される発想法です。エンジニアが学ぶ開発工学のなかで、創造的思考を担うものといえばTRIZ、という位置づけです。それぐらい、知る人はよく知る知識として存在しています。
ただし、なかなか歯ごたえのある「学問」
40個のブレイクスルーパターン集は「発明原理」という名前を持ち、ちゃんと学習をすると、高い発想アシスト効果を得られます。
実際、TRIZは当時から現代にいたるまで、様々な産業分野で使われています。機械装置系から自動車メーカー、半導体製造まで、技術的な問題を抱えたエンジニアが問題解決をする際に活用されています。大手ハイテク企業がその技法の活用で大きな収益を上げている事例もよく報告されていました。
ただ、ちょっと問題もあります。教育工学的な側面はかなり無視されていて(というより誕生した時期と地域からいってその概念がなかった)、現代の学習しやすい知識デザインに慣れている人たちには「むむむ……これは、無理だな」と学習の入口で引き返されてしまう。要するに、歯ごたえがありすぎな学問なんです。
そもそも40個もある発想パターンから、自身に適したものを選ぶだけでも正直言って大変です。特殊なメソッドに慣れるにはトレーニングも必要になります。そこが難点。
AIの力でTRIZを一気に実践できる技法
「工夫のパターン」
このTRIZを、学習することも、自身に最適なパターンを選ぶことも省略して、AIの力を使って一気にやってしまえないかと考えました。それが技法その13「工夫のパターン」です。
これが、そのプロンプトです。
何かの工夫・改良をする際には以下の発想の切り口40個を使って発想すると多様なアイデアが出ます。今考えたいのは〈課題や目的を記入〉の改良製品です。この題材ととくに相性がいいものを3つ選び、通常は組み合わせにくいものを3つ選び、発想してみてください。以下はその40個の切り口です。
1. 半分に切る 2. バラバラにして使えるようにする 3. 似ているものの中でどこか1つを変える 4. 左右で違う形にする 5. 二つのものを合わせる 6. 他にも使えるようにする 7. 中に、すっと入るようにする 8. どこかに重りを付ける 9. やる前に反対の方に動かす 10. 後で必要になるものを付けておく 11. 大切な所に何かを付ける 12. 高さを同じにする 13. 逆のやり方にする 14. くるくる回るようにする 15. いろいろな形にできるようにする 16. まずは大雑把にやる 17. 出っ張っている部分やへこんでいる部分を作る 18. 揺らす 19. 何度も繰り返せるようにする 20. 続けられるようにする 21. 素早く動かす 22. 邪魔になっているものを使う 23. 見えない所の様子がわかるようにする 24. 先っぽに固いものを付ける 25. 自分でうまく繋がってくれるようにする 26. 同じようなものをたくさん使う 27. どんどん取り換えられるものを使う 28. 磁石を使って動かす 29. 空気や水がものを押す力を使う 30. アルミホイルのような形を作れるもので包む 31. くっつくものを使う 32. 色を変える 33. 同じ固さか、同じ材料にする 34. 出すぎないようにするか出てきたものをまた使えるようにする 35. 温度や柔らかさを変える 36. とかしたり、固めたりする 37. 温めて膨らませたり冷やして縮ませたりする 38. もっと濃くしたりたくさん何かを入れる 39. 周りに良くないことが起きないように、何かを詰める 40. 違う材料を一緒に使う。
TRIZの40のブレイクスルーパターンを「1パターン=1フレーズ」まで圧縮。プロンプトはかなりの長文になっていますが、AIは大量の指示をものともせず、スコンと処理してくれます。
この技法をAIで実践してみると、妥当な案と意外な案、双方が生成されます。妥当な案でいいからすぐに解決策を得たい人も、実現まで遠くてもいいから創造的な工夫や開発をしたい人も、この回答から示唆を得ることができます。
ただし本書制作時点では、AIが一度に扱える文字量には上限があるため、40のブレイクスルーパターンそれぞれを用いてアイデアを回答させようとすると、1パターンあたりの回答量は100文字以下になります。
その短さで40通りの異なるアイデアを出力させるのは困難です。結果的に回答が勝手に「中略」されたり、意図から外れた出力をし始めてしまったりと不安定になりがちです。上記を勘案した結果、妥当案と創造的案を3つずつ出させる形で、プロンプトにまとめました。
ぜひ、活用してみてください。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。書籍では、こういったAIから想像以上の回答を引き出す56の方法を紹介しています)