ANA JAL危機 過去最高業績の裏側#14Photo:PIXTA

パイロット不足が深刻化している。国内の資格保有者は約7100人にとどまり、その中心は50代。2030年ごろには大量退職の波が押し寄せ、便数維持すら難しくなる懸念が高まっている。そんな中、パイロットがより高待遇な海外航空会社へ転職するケースも増えている。特集『ANA JAL危機 過去最高業績の裏側』の#14では、パイロットのキャリアパス、そして知られざる日系と海外エアラインの待遇・働き方の違いの実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

日本ではパイロット不足の懸念
2030年の大量離職が目前に迫る

 空の運航を担うパイロットの不足が慢性的な問題になっている。

 現在、国内のパイロットはおよそ7100人。中心世代は50代で、近い将来に大量退職の時期を迎える見通しだ。人材確保が追い付かなければ、便数の維持すら難しくなる恐れがある。さらに政府が掲げる目標の「2030年に訪日外国人旅行者6000万人」を達成するためには、パイロットを現在より13%増加させる必要があり、増加が見込まれる旅客需要にパイロットの人材確保が追い付いていないのが現状だ。この構造的な人手不足を「2030年問題」と呼び、業界は危機感を強めている。

 人材の補充計画が難しい側面もある。頭のてっぺんから爪先まで、心身共に厳しい検査を通過する必要がある上に、航空会社側も数年先の運行規模を見越して採用する人数を決めなければいけないからだ。航空機は、注文してから納入されるまでに2、3年間かかる。米ボーイングの最新大型機777Xのように、当初の予定から7年以上遅れて納入となるケースもある。

 数年後の航空機の数にちょうど合うパイロットの数にしておくことが求められる。厚生労働省が発表した「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、パイロットの平均年収は1697万円。医師や法務従事者、公認会計士を大きく上回り、職種別では最も高い待遇だ。

 余剰人員を多く抱え過ぎると、会社の経営を圧迫しかねない。採用しないと運航ができなくなる半面、採り過ぎるとコストが大きくなる。こうした点からパイロットの採用は各社の悩みのタネだ。

 近年、そんなパイロット不足に拍車を掛ける事態が起きている。

「待遇面から、近隣諸国の航空会社に転職するパイロットが出てきている。日本の航空会社のブランド力を考えれば、以前であればあり得ないことだ」

 航空政策を専門とする桜美林大学の戸崎肇教授はそう指摘する。コロナ禍には世界中の空港から旅客が蒸発し、機材の売却や人員整理を余儀なくされた航空会社も多かった。しかし今は国際的な旅客需要の急回復に伴い、パイロットの需要も高まっている。そのため高給と高待遇をエサに、日本人パイロットを引き抜く海外の航空会社が増えているのだ。

 では日本と海外の航空会社で、パイロットの待遇にどれくらい格差があるのか。

 次ページでは日系大手の日本航空(JAL)と、世界各国の航空会社のパイロットの年収を公開。また、海外でパイロットとして勤務するには日本とは異なるライセンスが必要になるが、取得することで日本ではめったにない“アルバイト”もできるようになるという。それを明らかにする。