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希望退職者を募集しているマツダが、突如として募集人数に上限を設けたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。先着順で決める残り90人の枠に入れなければ、最大で4000万円にも上るとみられる割増退職金は受け取れず、ただの自己都合退職になってしまうというのだ。特集『黒字リストラの恐怖!部長&課長を襲う希望退職と役職定年の絶望 出世・給料の残酷』の本稿では、関税地獄による業績悪化のただ中にあるマツダの「後出し」人数制限の本音と建前を関係者への取材で明らかにするとともに、リストラを迫っている根本的な経営課題にも迫る。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
マツダが後出し募集制限で
希望退職の説明会は大紛糾
マツダが、希望退職を巡って揺れている。同社は25年4月に希望退職者を募集すると発表し、現在も募っている。当初は「500人の定員をオーバーしても受け付ける」としていたが、10月に入って突如、定員で打ち切る方針を決めたのだ。最大4回にわたって募集する予定だったが、6月の1回目ですでに410人の応募が殺到、残る枠は90人のみとなっている。
10月末、広島県府中町のマツダ本社では、この「後出し」とも言える突然の打ち切りについて会社側からの説明会が開かれた。当日、労働組合が使っている会議室に100人近くのベテラン社員が次々と吸い込まれていく。あえて視線は交わさない。退職を考えながら働いているとは知られたくないからだ。
人事部門所属と思われる中年男性と若い男性が緊張した面持ちで前に立つ。名前も部署も名乗らない。恨まれる役回りだと自覚しているからだろう。案の定、説明会は紛糾する展開となった。
「家族に退職を伝えて新しい仕事も、家も決まっている!」「訴訟を検討している。弁護士に相談せざるを得ない」。ベテラン社員からそんな怒号が飛び交ったが、それでも会社側は「決定事項である」として打ち切りを撤回しなかった。
マツダが11月7日に発表した25年4~9月期決算では、最終損益は452億円の赤字。中間決算としては5年ぶりの赤字に沈んだ。主因は米国の関税だ。同社は米国での販売比率が3割を占める上に、販売する自動車の8割を日本とメキシコから輸出しており、関税のインパクトは甚大となった。26年3月期下期は値上げと販売台数増で挽回する考えで、26年3月期通期の最終損益は200億円の黒字との見通しを発表しているが、先行きは不透明だ。
ただし、いくら台所事情が苦しいとはいえ、会社を辞める前提で動いていた社員はたまったものではない。何より、重要なのは数千万円にも上る割増退職金がパーになることだ。しかも、残りの90人は「12月1日朝8時」という特定の日時にある特定の方法で募集することになったのだが、その方法にも不満が高まっている。
今回の騒動をつぶさに見ていくと、マツダがどの世代に退職してほしくてリストラに臨んだのかも浮かび上がる。割増退職金の金額は対象世代の中でも年齢によって「傾斜」がつけられている。同社の年収テーブルを基に試算した金額では、最も低い年齢と、最も高い年齢では2倍もの開きがあった。割増退職金を2倍積んででも会社を去ってもらった方が人件費を圧縮できると考えている特定の年代があったのだ。
次ページでは、マツダの給与テーブルを示した上で割増退職金の金額を明らかにする。特にターゲットにしているとみられるのはどの年代なのか。2回目の募集方法の詳細と課題とは。さらに、マツダがこのタイミングでリストラを断行した背景にある経営課題も明らかにする。そして、人事部から一方的に送り付けられたメールの衝撃的な中身や怒号が飛んだ説明会の様子も追加で詳述。また、本件に関して編集部からの質問に対するマツダ側の回答も記載している。







