「やることあるのに、なぜか動けない」――そんな自分を責めて、ストレスを抱えていませんか?
勉強、仕事、筋トレ…やる気はあるのに先延ばしてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』です。
著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。本記事では、外山氏にインタビューを実施し、「先延ばしグセを解消し、前倒しで行動するためのコツ」を心理学の知見をベースに教えてもらいました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「追い込まれないとやれない人」が軽視している「地味だけど超効く」1つの習慣Photo: Adobe Stock

なぜ「やろう」と思ってるのに動けないのか?

―― 勉強や仕事、筋トレなど「やろう」と思っていることがあるのに、すぐに取り掛かれないのは、なぜなのでしょうか?

外山美樹(以下、外山):私たちがなかなか行動を始められない原因は、単に「やる気がない」からとは限りません。

 心理学の研究によれば、その背後には自制心(セルフコントロール)の働きが深く関わっているとされています。

 自制心とは、「目の前の誘惑や快楽を抑えて、将来的な目標や価値のある行動を優先できる力」のことです。

 たとえば、「今はスマホを見たいけれど、将来のために勉強をする」といった判断を可能にするのが自制心です。

意志が弱いのではなく、心のエネルギーが消耗している

―― やることがあるのに、ついスマホでダラダラしてしまうことってありますよね。うまく動ける日もあれば、全然やる気が出ない日もあります。この違いは何なのでしょうか?

外山:実は、自制心には限界があります。

 心理学では、自制心は「心のエネルギー(資源)」のようなものであり、使えば使うほど消耗する有限なものとされています。

 実際の研究でも、自制心を使い続けることで、その後の行動の質や意欲が低下する現象が確認されています。

―― えっ、そうなんですか? それは驚きです。パフォーマンスやモチベーションが下がってしまうのですか?

外山:こうした現象は「自我枯渇(エゴ・デプレッション)」と呼ばれています。

 たとえば、チョコレートの誘惑を我慢した人は、その後の課題に対して早く諦めてしまう傾向があることが実験で示されています。

 つまり、「やらなければ」と思っていても行動できないとき、それは意志が弱いのではなく、すでに自制心が消耗している状態かもしれません。

 そのようなときには、まずは心のエネルギーを回復させることが必要です。

行動できる人は、「気合い」ではなく環境を整えている

―― それでは、やるべきことに取り掛かりやすくするためのコツはありますか?

外山:心のエネルギーを消耗させずに行動する工夫が必要です。

 多くの人は、「やる気=内面の力」さえあれば行動できると思いがちです。

 しかし実際には、やる気に頼らずとも自然に行動できる「仕組み」を外側に整えることこそが、実行力を高めるカギになります。

 心理学の研究でも、誘惑に打ち勝つためには、意志の力に頼るのではなく、環境を整えることが非常に有効であることが示されています。

 本書でも色々な解決策を紹介していますが、その例として、次のような工夫があります。

・スマホを机の上から物理的に遠ざける
・SNSにアクセスできない時間帯を設定する
・お菓子を買わず、家に置かない
・漫画を本棚の奥にしまい、視界に入らないようにする

―― スマホやお菓子といった誘惑が視界に入るだけで、自制心が消耗して、行動を起こしにくくなってしまうのですね。

外山:そうなのです。だからこそ、誘惑が「見えない」「手が届かない」「存在を忘れる」状態をつくることが、行動を起こす第一歩になります。

 本書では、こうした環境の工夫に加えて、自制心のエネルギーを無駄に消耗しないための心理的な戦略も紹介しました。

 行動力を支えるカギは、「気合い」ではなく、環境設計と習慣化の仕組みづくりです。

 勉強でも筋トレでも、何か目標を持っている人は、まず行動しやすい環境を整えることから始めてみてください。