
プレーヤーとして優秀な成績を収めていたのに、部下を束ねるマネジャーとしてはなかなか成果が出せない――こんなケースがよくあります。なぜ優秀なプレーヤーが、優秀な上司になれないのか。この問題の背景には、上司としての「思考の切り替え」ができていないことがあります。(らしさラボ代表取締役 伊庭正康)
自分で成果を出す力と
チームとして成果を出す力は別物
「プレーヤーとしては抜群なのに、マネジャーとしてはいまひとつ成果が出ない」――。
そんな声を現場で耳にすることがよくあります。例えば、営業成績が毎月トップだった人が課長に昇進したところ、チームの成果が伸び悩み、悩みを深めている。これは決して珍しい話ではありません。
本人の能力は高い。経験も豊富。努力家でもある。にもかかわらず、部下を束ねるマネジメントの場になると、なぜか思うようにいかない。
それは、「本人が成果を出す力」と「部下に成果を出させる力」加えて、「チームとして成果を出す力」はまったく別の能力だからです。
優秀なプレーヤーほど、自分のやり方こそ正解だと信じている人が多いもの。なぜなら、そのやり方で成功してきたからです。
その成功体験は、間違いなく本人の財産です。しかし、そのやり方をそのまま部下に押しつけてしまうと、むしろ逆効果になることが多いのです。
例えば、部下に対して「こうやればいいよ」「まずはこれからやってみて」とすぐに助言をしてしまう。これは一見、親切のように見えて、実は部下から“考える機会”を奪う行為です。
人が最もやる気を出す瞬間は、「自分で決めた」と感じたときです。これを心理学では「自己決定感」といいます。指示されて動いたときよりも、自ら考え、選び、決めたときのほうが、人は主体的に行動し、粘り強く成果を出そうとします。
ところが、上司がすぐに正解を教えてしまうと、部下は「自分で考えなくていい」と思い込みます。さらに言うなら、「上司の言うことを聞かないといけない(=やらされ感)」につながります。次第に、行動力も責任感も薄れていくでしょう。これでは、成長機会を奪うことにもなりかねません。