いま、ビジネスパーソンの間で「AI」が急速に浸透している。一部ではAIと対話して仕事を進めることが、すでに当たり前になっている。しかし一方で、「AIなんて仕事の役には立たない」「使ってみたけど、期待外れだった」という声も聞こえる。
「それは使い方の問題。AIの力を引き出すには適切な“聞き方”が必要です」。そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に発想や思考の研修をしてきた石井力重氏だ。「資料やメールを作成させるだけではもったいない。AIは適切に使えば、思考や発想といった仕事の負担も減らしてくれます」と言う。そのノウハウをまとめたのが、書籍『AIを使って考えるための全技術』だ。「AI回答の質が目に見えて変わった」と、発売直後から話題に。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も全面監修として協力した同書から、AIを使って「悩みの原因を探る」聞き方を紹介しよう。

【超保存版】“人間関係の悩み”にも解決策を示せるChatGPT「神プロンプト」ベスト1Photo: Adobe Stock

悩みの「深掘り」は王道のアプローチ

 抽象的な「悩み」を、考えやすい「お題」に変えるアプローチが3つあります。
 そのうちの1つが「深掘り」です。悩みを掘り下げて、その本質を追求します。

 ビジネスにも、プライベートな生活の中にも、難問は存在します。解決が難しいのは、表層的な部分しか見えておらず、解決の糸口となる「要因」が見えないから。問題解決を妨げている本質的な要因を探る必要があります。

その問題の「根っこ」を見つける

 鉛筆を例にしてみましょう。「鉛筆の芯がすぐに折れる」という悩みがあったとします。そのままでは解決の糸口がつかめませんが、「それはなぜなのか?」と深掘りしてみると「鉛筆の芯が薄くて脆い」「鉛筆の削り方が不適切」「書くときに鉛筆を寝かせすぎている」など、問題の核心に近づいていきます。

 そこからさらに「鉛筆の芯が品質不良」「鉛筆の芯が偏って削られている」「鉛筆が落下したり衝撃を受けたりしやすい環境にある」「鉛筆の表面が滑りやすいから、不適切な持ち方になる」……など、可能性のある要因を言語化していく、つまり根っこを深掘りしていきます。

 このプロセスは、よく「なぜなぜ分析」とも呼ばれます。
 
最終的に「手動の鉛筆削りを使って均等に芯を削るには?」「適切な持ち方をサポートするには?」など、アイデアを考えやすい「お題」に変換していきます。これが悩みを「深掘り」して課題に変えるアプローチです。

 この要因発見のプロセスを、私は「根っこを見る」と称しています。

AIの力で悩みの要因を見つける技法
「悩みの根っこ」

「悩み」を深く掘り下げ、要因を探っていくことはパッとできることでもありません。それなりのトレーニングが必要だと言われてきました。

 忙しい私たちはAIの力を借りてしまいましょう。
 それが、技法その45「悩みの根っこ」です。
 当初の「悩み」が持つ根本的な要因を列挙してもらい、「お題」化するところまでをいったんAIに任せます。

 こちらが、そのプロンプトです。

<AIへの指示文(プロンプト)>
 複雑な問題や悩みからアイデア創出のお題を作りたいです。具体的には〈悩みを記入〉という悩みから、この問題の根底にクローズアップしたお題を生成してください。
 なお、問題の根底にクローズアップするには、まず「その問題の解決を邪魔する要因(根底要因)を7つ」あげます。次に「その根底要因を解消するにはどうすればいいか」という趣旨の問いを各々3つのバリエーションで作ります。回答が長くなった場合も省略せずに書き出してください。

 プロンプトには「問題の根底」「根底要因を7つ」と、本質に向かって悩みを掘り下げるような指示を明示しています。「悩み」の要因は1つだけでなく、複数あることもよくあります。課題化の道筋も1つではない、ということですね。

 また「回答が長くなった場合も省略せずに書き出してください」という一文を明記しています。内容を豊かに保ちつつ回答を完全に提供してもらうためのテクニックです。

 なお、ChatGPT以外の対話型AIでも十分に効果を発揮するプロンプトです。

「抽象度の高い悩み」に最適な技法

 アイデアの方向性がつかめないようなら、目の前にあるそのお題は、まだ悩みの段階なのかもしれません。技法「悩みの根っこ」の使いどころでしょう。解決を半ば諦めてしまっているような「長期間の悩み」に使ってみてもよいと思います。

 悩みの要因を深掘りして、複数にわたって列挙するのはAIの得意とするところ。使わない手はありません。
 なぜなら私たちが自由に使えるAIは、すでに膨大なデータを学習しています。あなたの悩みが世界初登場でないかぎり、AIは過去データを活用して興味深い洞察を提供してくれます。もちろん完璧とは言いませんが、時間も節約できて、糸口を得るという意味ではかなり役立ちます。

 私が研究、実践してきたかぎりでは、とくに人間関係や社会生活に関する悩みに技法「悩みの根っこ」を使った際は、多くの場合で高レベルな回答を出してくれました。
 
一方、技術的な悩みの場合は、回答の品質がまちまち。技術的な悩みには固有の複雑さがあるため、類似のデータを異なる領域の悩みに当てはめるのが難しいからなのかもしれません。

(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。書籍では、こういったプロの「思考・発想術」をAIで実践する56の方法を紹介しています)