ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

【日本の常識はパリの非常識】体重計を使わないパリジェンヌがよく使う驚きの手段Photo: Adobe Stock

「理想体重」への執着――私を縛っていたもの

 なぜ私はそれほどまで痩せることにこだわっていたのでしょう。振り返ってみると、私は学生の頃から毎日体重計に乗っていました。フランスの大学院に留学し、引っ越しを繰り返す最中も体重計は手放したことがありません。体重は私にとって大事なバロメーターであり、「大台に乗ってしまった」時などは、一日何回も体重を測るようなことすらありました。

 ジュリエットと話をしてから、私は「理想の体重って何だろう」と真剣に考えるようになりました。「標準体重」という言葉がありますが、これは医学的に認められた数値であり、健康維持に最適な体重といわれています。国際的に用いられている体格指数「BMI(Body Mass Index)」の値が22の時とされており、誰でも簡単に計算をすることができる数値です。

パリジェンヌの「体重観」に受けたカルチャーショック

 では、私が勝手に頭の中で描いていた「理想体重」は何かと言えば、2016年頃からSNSを中心に10代~20代の若い女性を中心に広がった言葉がピッタリきます。それは「シンデレラ体重」というものです。標準といわれる体重よりも少なく、医学的根拠が全くないのが特徴です。

 結論から申し上げると、私はシンデレラ体重になることが「美しい」そして「価値がある」と考えていたことになります。つまり、「シンデレラ体重を達成すれば、理想の自分になれる」と信じていたのです。

 そしてそれは、今も昔も、テレビや雑誌、インターネットやSNSで見る人気タレントやモデル、そして愛くるしいアイドルの見た目に近づきたい、きれいになりたい、という強い憧れがあるからではないでしょうか。

 では、パリジェンヌは「標準体重」と「シンデレラ体重」のどちらを気にしているのでしょう。その答えは「どちらでもない」です。それどころかパリジェンヌは体重を全く気にしません。その驚きの事実に直面したのは、当時の広報部長の豪邸でクリスマス会をした時のことでした。

帰りに薬局で体重測ったら?

 フランスでは忘年会、新年会などの行事はあまりないのですが、唯一、クリスマス前に集まり、パーティーをする習慣があります。それは会社の会議室で行われることもあれば、レストランや自宅で行われることもあります。

 広報部長のマダムが部署メンバー全員を招いてくれたその日。彼女の自宅サロンには大きなクリスマス・ツリーが飾られ、もみの木の良い香りが立ち込めていました。プレゼント交換など、ひとしきりの催し物が終わった後、私は同僚達とソファで歓談していました。

 ファッションPRのファニーは最近重いインフルエンザに罹り、一昨日からやっと職場に復帰したと言います。いつもは口の悪いファニーも今日ばかりはおとなしく、口数も少ないので何だか拍子抜けです。数日の間、何も喉を通らなかったと言う彼女は心なしか、少しげっそりしています。

「痩せたんじゃない?」

 そう聞くのは同僚のソフィアです。それを聞いて「ちょっと羨ましい」と思ってしまったのは私だけのようです。周りは皆、心配顔です。パリジェンヌにとって、「痩せたわね」は決して褒め言葉ではないのです。そして、

「帰りに薬局で体重測ったら?」

 と口々に言っているではないですか。

「薬局で体重を測る」という感覚が全くない私は、一瞬ポカンとしてしまいました。なんと、パリジェンヌの家には体重計がないのです。広報部長の家にも置いてありません。パリジェンヌが体重を測るのは、身体測定の時、もしくは健康管理のため。その時は医者の元で、あるいは近くの薬局に行って体重を測るらしいのです。

体重計よりも「ジーンズ」が教えてくれること

 それは体重計に齧り付いていることが多い私にとって衝撃的な事実でした。驚きを隠せずにいると、ファニーはいつもの調子を取り戻し、

「体重ばかり気にしているなんて変よ」

 と言います。痛いところを突かれた私は、体重が「増えたか、減ったか」を自分で知ることは、「食べ過ぎているのか、そうでないのか」を知るために便利であること。そしてある程度の目安になることを弁明すると、ファニーは意外なことを言いました。

「私は目安として、ジーンズを使ってるわ」

 すると、周りの女性も皆、口を揃えて

「私もよ!」

 と嬉しそうに言っています。

 そうなのです。パリジェンヌが「食べ過ぎか、そうでないか」の目安として使うのは体重計ではなく、ジーンズなのです。つまり、マイ・ジーンズを一つ定め、それをはいた時に「キツイか、キツくないか」という感覚を大事にしているのです。客観的な数値などどうでもよいのです

「どんなジーンズを使っているの?」

 そう質問を投げかけてみると、PR達は我先にとジーンズ自慢を始めました。「マイ・ジーンズ」には相当のこだわりがあるようです。話に収拾がつかなくなり、私が困っていると、見兼ねたファニーが言いました。

「明日オフィスにみんなでジーンズをはいてくる、っていうのはどう?」

 周りはみんな、大喜びです。

 かくして、ルイ・ヴィトン本社のPRオフィスで一日限りの「ジーンズ・デー」が実施されることになりました。