ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

【日本の常識はパリの非常識】無理に我慢してないのに細い!パリジェンヌが教える痩せ体質の作り方Photo: Adobe Stock

会議の朝食で繰り広げられた攻防

 パリでは毎年、春夏と秋冬にファッション・ウイークが開催されます。各ブランドが来シーズン向けにコレクションを発表する大事な期間、俗に言う「パリコレ」です。ブランドにとっては、世界中からセレブ、バイヤー、メディアなどのゲストが集まる一大イベントでもあります。

 私はファッション担当ではなかったのですが、助っ人としてよくショーのお手伝いに駆けつけました。限りなく多くの人が一丸となって作り上げているのがファッション・ショーです。その壮大なエネルギーに毎回、毎回、私は一人で感動していました。

 周りはと言えば、感動する暇もない、もっと言えば、忙殺されていると言っても過言ではありません。いつもはダラダラの人も、キビキビと働いています。一旦スイッチが入ると集中力がすごいのがパリジェンヌなのです。

 疲れもピークに差し掛かった頃、朝ごはんの時間を使ってミーティングをする機会がありました。アメリカからショーのためにパリに来ている、仲間のPRたちとの会議です。

 往年の人気女優・ブリジット・バルドー似のフランス人の同僚、ソフィアと一緒に参加した私は、座るや否や、何を注文しようか、思案に明け暮れていました。フランスのカフェで提供される朝ごはんと言えば、クロワッサンやバゲットなどのパン、オムレツ、オレンジ・ジュースにコーヒー、というのが定番です。どれもカロリーが高そうなものばかりです。

「ホワイトオムレツvs.バターオムレツ」論争

 ダイエット中の私にとって、クロワッサンは論外。オムレツもちょっとヘビーだな、と思うのですが、コーヒーだけ、というのもなんだか口さみしい気がします。結局私は「タルティーヌ」という、スライスしたバゲットにバターやジャムをつけて食べるものをオーダーしました。

 アメリカ人のローラはギャルソンを捕まえ、英語で何やらメニューにない「ホワイトオムレツ」を注文しています。露骨に嫌な顔をして「ムリ」と言うギャルソンですが、ありもしないアレルギーを理由にローラは彼を説得にかかります。渋々承知し、ブツブツ言いながら立ち去る彼の後ろ姿を見送りながら、ローラは呆れたように言いました。

「ニューヨークでは定番のオムレツよ。パリにはまだないのね」

「まだ」という言葉にある棘に反応したのは、私だけではありません。パリジェンヌのソフィアが素早く口を挟みました。

「パリではそんなもの、需要がないからよ」

「そんなもの」呼ばわりされたローラは黙ってはいません。会議もそっちのけでホワイトオムレツの素晴らしさを力説し始めました。高タンパクで低コレステロール、しかも脂肪分は限りなくゼロに近い卵白のみを使って作ったオムレツは女性の味方であること。栄養価はあるのに、普通のオムレツよりカロリーが劇的にダウンしたホワイトオムレツはダイエットに最適であることを力説します。

 ローラはほっそりとしており、ファッション・センスも抜群。いわゆる意識高い系の若い女性です。そんなローラでもダイエットをしているのか聞いてみると、

「日頃から食事にはものすごく気を付けている」

 と言います。そして、

「節制していないとすぐ体重に出る」

 と嘆いています。

 運ばれてきたホワイトオムレツは真っ白でふわふわです。少し分けてもらうと、見た目は良いのですが、非常に味気なく、空気を食べているような感覚です。物足りない感が半端なく、お世辞にも美味しいとは言えません。

ダイエット不要?パリジェンヌの秘密

 パリジェンヌのソフィアもほっそりとしており、何を着てもサマになる体型です。私が入社したての頃、密かにファッションの真似をしていたくらいオシャレな女性です。そんな彼女の元に運ばれて来たのは、普通の黄色いオムレツでした。卵3個分くらいはありそうな大きなオムレツです。

「オムレツはバターたっぷりが正解よ」

 そう言い放ったソフィアはさっそく熱々のオムレツを美味しそうに食べ始めました。気が付くと私は

「同じものをください!」

 とギャルソンに言いつけていました。我慢できなくなったのです。

 口に入れた瞬間、バターの香りが広がり、それは、それは、美味しいオムレツでした。疲れきった体がホッとするような、そして、「今日も一日頑張ろう」と思うことができるような、優しい味でした。

「疲れている時はきちんと食べなきゃ」

 そう言うソフィアと比べると、気のせいかローラはその日、とても疲れた顔をしていました。

 ローラのように「ダイエットをしていないとすぐ体重が増えてしまう人」、多いと思います。それは無理な節制を続けていると、身体が脂肪を蓄積しやすくなるためだと言います。一度痩せるためだけのダイエットを始めると、ダイエット地獄に陥ってしまうのです。

 対して、ダイエットを全くしないのに体型を保っているソフィアです。そう言えば、彼女が何かを我慢しているのを見たことがありません。ポテトフライだって、クッキーだって平気で食べます。この違いはどこから来るのでしょう。

 それ以降、私はパリジェンヌの生活習慣を逐一観察するようになりました。