週刊ダイヤモンド100周年記念号の2013年5月18日号第一特集『総力検証! パナソニック最後の賭け』でも取り上げたように、いま、パナソニックは大きな転換期を迎えている。業績は2期連続で合計1.5兆円もの巨額赤字に陥っており、まさに、危機を迎えているといっていい。そのパナソニックを長年取材してきたノンフィクション作家・ジャーナリストの立石泰則氏の目には、現在の同社はどう映るのだろうか。最新著『パナソニック・ショック』を上梓した立石氏に、同社の復活のためのヒントを聞いた。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部・後藤直義)
幸之助さんの回りには
型破りな番頭さんがいた
――なぜ今、経営危機に直面するパナソニックについて執筆をしようと考えたのですか。きっかけを教えて下さい。
1950年福岡県生まれ。ノンフィクション作家・ジャーナリスト。92年に『覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年(上・下)』(日本経済新聞社)で第15回講談社ノンフィクション賞を受賞。他に、『さよなら!僕らのソニー』(文春新書)など多数。最新刊は『パナソニック・ショック』(文藝春秋)
かつて私はデビュー作として『復習する神話~松下幸之助の昭和史~』(1988年)というノンフィクションを上梓しました。そこでは家電業界に君臨した松下幸之助さんでさえも、コンピュータが主役になるという時代の流れを読み切れずに経営判断を誤り(事業撤退を決断)、その後の松下グループを悩ませたことを描きました。
当時、私はまだ無名なジャーナリストでしたが、思い切って松下幸之助さんをテーマに取り上げようと決めました。ご本人はすでに体調が悪くて入院しており、インタビューなどの取材はとてもできない状態でした。そこで幸之助さんを支えてきた松下グループの“大番頭”と呼ばれる人たちへの取材を重ねることで、松下を語ろうとした訳です。
今回はその続編として、長年の宿題に手を付けました。7000億円を超える巨額赤字を2年連続(12年3月期、13年3月期)で計上した「パナソニック・ショック」の発生も、その原点を見つめ直す作業を後押ししました。
――今回の作品では、あえて100年近く続いてきた老舗家電メーカーの創業理念から紐解いています。パナソニックは、そもそもどのような企業なのでしょうか。
松下グループは、やはり「経営の神様」である幸之助さんが作り上げてきた企業です。その創業理念には、家電を日本中に普及させることで家事労働から国民を解放するという考えがありました。
私にとって松下とは、「ナショナル」のブランドであり、それはテレビや冷蔵庫といったイメージとして長年刻まれてきました。
また私自身が九州出身ということもあり、地方(和歌山県)出身の幸之助さんという存在にはとても愛着がありましたし、そのドメスティックな雰囲気が好きでした。かつて幸之助さんの回りには、とても面白い番頭さんがたくさんおり、取材でも型破りな人たちと出会うことが多かったですね。
そんな松下電器は大胆にいえば、幸之助さんが大企業に成長させて、女婿の松下正治社長の時代(1961~1977年)にやや土台が揺らぎます。