「漫画なんて大の男がやることじゃないでしょう?」

贅沢好きな登美子なので、のぶのオンボロトタンの部屋にびっくり。電車が近くを通るたび、大きな音と揺れがある。
あからさまにびっくりする登美子。さらに、次郎(中島歩)の写真を見る。ここで、のぶと戦争で夫を亡くした者同士でしんみりするかと思いきや、「ハンサムだこと。精悍で、鼻も嵩より高いわ」と嵩と比較してほめる。
嵩のなんともいえない表情。平気で(悪気なく)子どもを傷つけるようなことを言うのが登美子である。直接的に嵩の容姿を悪く言っているわけではない。でも誰かと比較するのは意外とこたえるものだ。比較相手が前夫だからなおさら。
さらに登美子は嵩にこれからどうやって生計を立てていくのかと問い詰める。のぶは嵩の漫画を描きたい気持ちを大切にしたいと考えているが、登美子は嵩にちゃんと働くように諭す。
「漫画なんて大の男がやることじゃないでしょう?」
このセリフは痛烈だ。令和のいまでは信じられない。いまや漫画が世界に最も誇れる文化のように成長したが、この頃の漫画の地位は低かった。
そう思うと、漫画をここまでにした先人の作家たちの功績は実にすばらしい。とりわけ、そのうち出てくる手嶌治虫のモデルの手塚治虫は偉大である。
「のぶさんものぶさんよ 才能があるなんて嵩をそそのかすのはやめてちょうだい」
ここで嫁姑喧嘩に発展しそうに。
とりあえず、その日は酔いつぶれた登美子だけのぶ宅に泊まって、嵩は八木の家に泊まることになった。
「強烈な母親なんです。息子を困らせる」
嵩は八木のところで愚痴る。
八木「俺の屋台には人生相談所という看板が出てるか?」
視聴者の思いを汲んだセリフである。のぶもここで八木に相談していた。嵩とのぶの似ているところであろう。
その晩のぶは、登美子が突っ伏して寝ているのをやさしく見つめ、それから次郎の写真に視線を移す。
のぶの中で次郎への想いはどう変化しているのだろう。でもそれは第85回の蘭子(河合優実)のセリフでフォローされている。亡くなった人(このときは千尋)に遠慮しても亡くなった人は嬉しくないだろうということ。
「どんなに思うても もう気持ちを伝えることはできんがです。戦争で死んだ人の思いをうちらあは受け継いでいかんといかんがやないですか。人を好きになる気持ちとか。そんなに好きな人に出会えたこととか、なかったことにしてほしうないがです。なかったことらあにせんといてください」