他人の言動に振り回されないようにするには?

――人から言われたことをいつまでも引きずってしまうこともあります。そんなときはどうしたらよいでしょうか?

川野:精神科医として診療に従事していると、時には苛立っている患者さんから厳しい言葉をかけられることもあります。そんなときは「この人は苦しくて苦しくて、相手のことを思いやる余裕がなくて、私にぶつけるしかなかったんだな」と捉えてみるんです。

さらに「私にだから言えたのだとしたなら、少しは役に立てたかもしれない」と受けとめるようにしています。

――ショックなことを言われたとしても、「相手に言わせてあげた」と考えるんですね。

川野:そうです。そう考えると、不思議と怒りや悲しみではなく、「思いやりの心」が湧いてくるんです。

そのうち自然と落ち着いた心の姿勢で傾聴できるようになり、相手の攻撃性がトーンダウンしてくる。逆にこちらがビクビクしていると、その不安が相手に伝わって、怒りを引き出してしまうんです。

――意識の持ち方が、相手の態度にも影響していくんですね。

川野:はい。キツいことを言う人は無意識的に、相手の反応に手応えを求めています。それに対して、へこんだり、反応したりすればするほど、相手の承認欲求を満たしてしまうんですね。

だから、過度に反応せず余裕を持つことが大事です。そうしているうちに、自然と嫌なことを言われることも減っていきますよ。

失敗を成長に変える2つの行動

――お話を伺って、失敗との向き合い方が見えてきた気がします。

川野:まずは失敗を検証すること、そしてショックを受けている今この瞬間が、心を強く育ててくれると意識すること。この2つの行動をとるだけで、気持ちはだいぶ楽になります。

――そうした小さな積み重ねが、心のあり方を変えていくんですね。

川野:そうなんです。『瞬間ストレスリセット』には、そんな視点の切り替えに役立つヒントがたくさん詰まっています。できそうなところから試してもらえたら、心の持ち方が変わっていきますよ。

(本書は『瞬間ストレスリセット 科学的に「脳がラクになる」75の方法』に関する書き下ろし特別投稿です)

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、近著には『禅僧の精神科医が教える 頭と心が整理される1分の使い方』(大和書房)などがある。