イーロン・マスクによるツイッター買収の全貌を描いた衝撃のノンフィクション『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)が話題だ。本書には、マスクとツイッター社の壮絶な攻防と理想の衝突が、克明かつ臨場感たっぷりに描かれている。「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」「一気に読んだ」などの絶賛の声も多い。本記事では、言論の自由を訴えていたはずのマスクが矛盾した行動に走った理由について、本書を引用しながら紹介する。(構成/小川晶子)

【ツイッター買収で、イーロン・マスクは壊れた!】「言論の自由」をかかげながら、他人のアカウントを凍結しまくった「マスクの矛盾」Photo: kovop58/Adobe Stock

ツイッター社内で遊んでいたマスクの息子「X」

天才起業家であり世界一のビリオネア、イーロン・マスクには子どもが14人以上いると言われている。

カナダ出身のアーティスト、グライムスとの間に3人の子どもをもうけており、その第1子が「X(エックス)」こと「X Æ A-12(エックス・アッシュ・エー・トゥエルブ)」だ。

2020年5月に生まれたXはリアル世界にありえないほど愛らしく、マスクは彼がいると心が安らぎ幸せを感じるので、どこにでも連れて行った。

『Breaking Twitter』の中にも、小さいXがしばしば登場している。

たとえば、ツイッターに入社してまだ1年半だったエスター・クロフォードが、イーロン・マスクがツイッターを買収したあとすぐに打ち合わせに呼ばれ、本社の大会議室に向かったとき。

ごついボディガードや、有名な投資家、ジャーナリスト、顧問弁護士などがたむろしている中に2歳のXの姿があった。

2歳になるマスクの息子、X Æ A-12(エックス・アッシュ・エー・トゥエルブ)が林立する大人の足をすり抜けるように走り回っているのだ。積み木を両手に握って。この年ごろの子どもらしくただにこにこと走っていて、大事なビジネスの話が周りでされていることにはまるでとんちゃくしていない。Xにしてみれば、いつもどおりのおかしな光景にすぎないのだろう。
――『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』より

心が和む場面だ。
冷酷だと言われるイーロン・マスクの、血も涙もない大量解雇や無理難題に、生きた心地のしないツイッター社員たちが描かれる中、Xの登場シーンにはほっとしてしまう。

ところが後半、不穏なシーンもある。
Xが乗っていた車が怪しい黒づくめの男にストーキングされたのだ。

ツイッター買収目的は「言論の自由を守ること」

イーロン・マスクがツイッターを買収したのは、言論の自由が守られた場にしたかったからだ。

買収した少しあと、こんなツイートをしている。

私の飛行機を追いかけ、私自身の安全をはっきりおびやかしているアカウントさえ凍結しないほど、私は言論の自由を尊重している。

マスクのプライベートジェットを追跡するアカウントがあるのだが、それすら放っておいていると言っているのだ。

マスクは、「きらいな人間が気に入らないことを言う」のが言論の自由だと定義し、ツイッター上でいくら突っかかられても気にしないし、アカウント凍結などしないことにしていた。

息子がストーキングされたことで、マスクの態度が一変。「アカウント凍結祭り」へ

しかし、大事な息子Xが狙われたと聞いて考えを変える。夜の9時から10時、Xを乗せた車がストーキングされていることにドライバーが気づき、その怪しい車に近づいてスマホで撮影。その画像をツイッター本社にいるマスクに送ったのだ。

マスクは恐怖と憤怒、無力感にさいなまれた。しばらく悩んだあと、こうツイートした。

身体の安全が脅かされることから、誰かの位置情報をリアルタイムにさらすアカウントは凍結とする。

さらに続けた。

昨晩、小さなXを乗せた車が、ロサンゼルスで、頭のおかしいストーカーにつきまとわれた(私だと思ったらしい)。ストーカーは車の進行を妨害し、ボンネットに登るなどした。私の家族に対する危害を支援したスウィーニーおよび組織に対しては、法的措置を取るつもりだ。

スウィーニーとは、マスクのプライベートジェットを追跡するアカウント@ElonJetの中の人の名前である。@ElonJetアカウントは凍結され、スウィーニーの個人アカウントも凍結された。
それだけでは終わらない。

なんと、この凍結について記事を書いたジャーナリストたちのアカウントまで次々に凍結される事態に発展した。スウィーニーのウェブサイトへのリンクを紹介しながら記事を書いたからということのようだ。凍結アカウント数は900を超えたとする説もある。

ちょっとやそっとじゃアカウント凍結なぞしない、言論の自由が第一と言っていたイーロン・マスクがやったのだ。もちろんこれは大きな批判を浴びることとなった。明らかに矛盾しているのだから当然だろう。

その後、平静を取り戻してからは、「アカウント凍結をいつ解除すべきか」とツイッターでアンケートを取り、「いますぐ」と答えた人が過半数を超えていたのをもって凍結解除をした。

Xも無事だったのだし、これにて一件落着……というわけにはいかなかった。この事件はイーロン・マスクにどろどろとしたわだかまりを残した。

「ツイッターがイーロン・マスクを壊した」

改革を強引に進めつつも、さまざまな事件が起きて自信を失っていく(ように見える)イーロン・マスク。

ツイッター社のグローバルセールスマネージャーで、マスクのもとでも頑張ってきたジェシカ・キタリーが辞任する直前にマスクに思いをはせるシーンは印象的だ。

自分にも子どもがいる。だから、息子が乗った車がつけ狙われたと聞いて過剰に反応したのを責める気になれない。たしかに、ツイッターのトップとしてまちがった判断をいくつも下してきたが、なぜそうなったのか、理由に気づいてほしい、そして、ソーシャルメディア企業の経営はロケットの建造と大きく違うのだと気づいてほしいと思っている。数学や科学の世界ではない。こう動けばこう返ってくるという世界ではない。理屈通りに動くわけではないのだ。なぜなら、人を中心としたビジネスだから、感情が渦巻くビジネスだからだ。
――『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』より

そして、最初にツイッター社に登場したときとは、マスクはまるで違う人のようになったと感じるジェシカは言う。

イーロン・マスクがツイッターを壊したのではない。ツイッターがイーロン・マスクを壊したのだ。
――『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』より

マスクは一度壊れたのかもしれない。
でもきっと、これからもいくつもの修羅場を超えていってくれるのではないか。まだまだイーロン・マスクの物語は終わらないはずだ。

(本稿は『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』に関する書き下ろし特別投稿です)