イーロン・マスクによるツイッター買収の全貌を描いた『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)。本書ではイーロン・マスクとツイッター社側の壮絶な攻防と理想の衝突が、克明かつ臨場感たっぷりに描かれている。「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」「面白くて一気に読んだ」などの絶賛の声も多く寄せられている。一橋大学特任教授の楠木建氏は、本書について「イーロン・マスクという人物の本質を見事に浮かび上がらせている」と語る。本稿では、本書の内容をふまえ、楠木教授に「イーロン・マスクとはどんな人物か」をテーマに寄稿いただいた。(全5回のうち第2回)(構成/ダイヤモンド社・林えり)

普通じゃない。最初からスケールが違う
――イーロン・マスクがテレビのインタビューで発した言葉だ。もちろん普通ではない。
テスラの目的は「車」ではなかった
最初にテスラに投資したときから、マスクの目的は単に電気自動車を作ることではなかった。
採掘しては燃やす「炭化水素社会」から「ソーラー発電社会」へのシフトを加速する。
そのために、まずはスポーツカーを作る。その利益で手頃な価格の車を作る。
その利益でさらに手ごろな価格の車を作る。
最終的には、ゼロエミッションで発電ができる仕組みを構築する――これがマスクのシンプルにして壮大なマスタープランだった。
「火星開拓検討会」を開催
スペースXにしてもそうだ。
NASAのウェブサイトで火星探索計画がないことを知ったマスクは、新たなミッションを思い立つ。
火星に入植する――これ以上に壮大なミッションはない。
火星に行くと想像しただけで元気になる。
こうなると、マスクはあらゆることを「火星に行く」というレンズを通して考える。
現在でも、スペースXではエンジンやロケットなどの技術検討会に加え、「火星開拓検討会」を毎週開いているという。
「本当に画期的な出来事はいくつかしかない」
とにかく発想のスケールがデカい。
「本当に画期的な出来事はいくつかしかない」とマスクは考える。
単細胞生物の誕生、多細胞生物の誕生、動植物の分岐、海から地上への進出、哺乳類の誕生、意識の誕生――これぐらいしかない。
次の「画期的な出来事」は複数惑星に命を広げること。
自分のビジョンを「天からの負託」と周りに思わせることができる能力は桁外れのものがある。