そのひとつが、規模の大きさゆえの購買力と、仕入れの安定性だ。

 ホテルのブッフェは、シーズンやテーマごとにあらかじめメニュー構成を固めている。こうすることで、事前に購買部を通じてまとまった量を仕入れ、物量を安定させ、単価を抑えられる。

 食べ放題・ブッフェを扱う大手外食企業を挙げると、「しゃぶ菜」「雛鮨」などで食べ放題店を、その他にも複数ブランドを抱えるクリエイト・レストランツ・ホールディングス(年商1500億円規模)、「グランブッフェ」「エクスブルー」「フェスタガーデン」などを展開するニラックス(年商100億円規模、すかいらーくグループ)、デザートバイキングで人気の「スイーツパラダイス」(年商60億円規模、井上商事)などがある。こうした大手は、一括仕入れによるコスト削減と、多店舗展開による効率化が強みだ。

 食材の仕入れ以外にも工夫している点がある。例えば、原価の高い食材はオシャレな豆皿に盛ることで量を絞りつつ目立たせる演出を。原価の安いパスタや揚げ物は、客が自然と手を伸ばす動線に配置している。客の満足感を損なわずに、利益を守る知恵といえる。

 他にも、客単価の安定性、滞在時間のコントロール、食材構成の設計がポイントになる。

 食べ放題は定額制なので、客単価が読みやすい。繁閑の差が激しい一般の飲食店と違い、売上予測が立てやすいのは大きなメリットだ。特にホテルにとっては、宿泊者の朝食や夕食と組み合わせることで料飲部門全体の稼働効率が上がる。

 次に制限時間の設定。多くのブッフェでは、90分~120分というルールがあり、これによってテーブルの回転率を上げることができる。また、客が自分で料理を取りに行き、注文や配膳の必要がないのでスタッフの負荷は低い。高度なサービスは必要ないので人件費も抑えられる。

 最も重要なのが、食材構成の設計だ。パスタ、ピラフ、パン、揚げ物、デザートなど原価が低い料理を軸にして、ローストビーフや寿司などの目玉メニューをバランスよく配置する。こうすれば、「満足感はあるが、過度にコストがかからない」ブッフェが完成だ。アルコールの注文を促したり、魅力的な飲み放題プランを用意したりで、売り上げアップも狙える。

 食材高騰、人手不足の逆風でも、規模の強みを活かし、購買とメニュー設計の工夫でコストを抑える――こうした舞台裏の努力がある食べ放題ビジネスは、意外と奥が深いものだ。

 一般的に食べ放題の原価率はやや高く40%前後とされる。1人6000円であれば、食材コストは2400円ほど。しかし、人件費率を20~25%に抑えられるので、賃料・光熱費率の15~20%などを加えても、営業利益率は10%以上も可能だ。一般的な飲食店の営業利益率である5~10%に比べて、高水準である。

 さて、客からすると最も気になるのは「何をどれだけ食べれば元が取れるのか」という点だろう。後編『「食べ放題で元を取る人」のメニュー選びに共通する“たった1つの基準”とは?』では、この点を詳しく解説する。また、食べ放題で特に人気のある焼肉と寿司について深掘りする。

 さらに、最終編となる『夏休みにオススメ!「ホテルビュッフェ6選」』では、この夏におすすめのホテルブッフェを写真付きで紹介しよう。