承認欲求が満たされず
「どうせ何をしても無駄だ」の思考へ

 米心理学者・マズローの欲求5段階説にもあるように、人間には、「自分のことを分かってほしい」「認めてほしい」という根源的な承認欲求があります。

人間の発達と可能性の探究を目標として A.H.マズローが提唱した欲求,動機づけ理論。人間の欲求構造が次の5段階をなすと説明した。 (1) 生活維持の欲求 (生理的欲求) ,(2) 安定と安全の欲求,(3) 社会的欲求 (集団的欲求,所属欲求,親和欲求) ,(4) 自我の欲求 (人格的欲求,自主性の欲求,尊敬の欲求) ,(5) 自己実現の欲求。 (1) ~ (4) の欲求については,下位の欲求が充足されると次の欲求が高まるが,最高位の (5) の自己実現の欲求は完全に充足されることがなく,引き続いて欲求が喚起され,行動の動機づけとなり,高い勤労意欲が誘発されると説く。

 しかし、自分の働きや努力が評価されず、感謝もされない状態が続くと、人間は次第に「学習性無力感」に陥ります。学習性無力感とは、「どうせ何をしても無駄だ」という感覚のことです。

 静かな退職者の心の中には、「本当はもっと頑張りたい。でも、あなた(上司や会社)は私を見てくれていない」という感情が渦巻いているのではないかと考えられます。この心理的な痛みや葛藤が続くと、自分を守るために、人間の心は「適応行動」を取るようになります。

 どういうことなのか、順を追って説明しましょう。この現象は、精神分析学でいう「防衛機制」によって説明できます。防衛機制とは、フロイトが提唱した概念で、自分の心を守るために無意識に働く心のメカニズムのことです。

 静かな退職者によく見られる防衛機制には、次の3つのパターンがあります。

●抑圧(リプレッション)

 自分の中で受け入れがたい感情や欲求、記憶を無意識の領域に抑え込んで、意識から遠ざける防衛機制です。評価されない悔しさや、やりがいを感じられない辛さが、意識に上らないよう心の奥に押し込めます。

 表面的には「別に期待していない」「これくらいで十分でしょう」と言っているように見えますが、本音は封印されているのです。