「すぐ調べる人」と「しばらく考える人」どっちが“偉い”?AI時代でも意味のある学び『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第91回は、「知識や情報」との向き合い方について考える。

「数学とはなんのためにあるか」

 龍山高校理系トップの藤井遼は、東大模試の合格可能性がD判定だったことにいら立ちを覚える。この原因について東大合格請負人の桜木建二は「東大の問題は得た知識や情報の活かし方を問うもの」だからと分析した。

「知識や情報を活かす」とはどういうことだろうか。それを考える時、私はいつも中学校1年生の時の出来事を思い出す。数学の授業中ふざけていた生徒に対して怒った先生が、「数学とはなんのためにあるかを考えてこい」と言って教室を出たのだ。

 次の数学の授業で、先生がふざけていた生徒に同じ質問を再度問いかけると、生徒は「自然現象を正しく理解するためです」と答えた。すると先生は「数学とは理科のおまけか…」とつぶやいた。その時の先生の寂しそうな表情は今でも覚えている。

 今まで得た知識や情報を論理的に組み合わせて、目の前の未知に挑む、それがこの先生の言いたかったことではないかと私は解釈している。既存の答えをなぞるのではなく、新たな疑問を見つけることが学びの本質だ。

 だが、解き明かすべき「問い」を見つけることが、だんだんと難しくなっているように思える。

 英語の辞書に“google”という動詞が掲載されているほど、インターネットで何かを検索する行為は日常化している。そこにきてのAIだ。すぐに「答え」が見つかる。「知識や情報を活かす」ことに限っていえば、もう人間はコンピューターに勝てない。

安易に調べない方が「考える力」は育つ?

漫画ドラゴン桜2 12巻P71『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 私はカジュアルな場では、気になったことをすぐに調べるようにしている。友達と話していても、しばし会話を中断してスマホで調べることがある。よく友達からは偉いね、などと言われたりするのだが、内心複雑だ。

 答えを見つけるまでに時間がかかると、その答えを想像してあれやこれやと仮説を立てる。その仮説が間違っていたとしても、今度は「なぜ間違っていたのか」を考えることができる。

 もちろん、調べるな、というつもりはない。調べるまでに時間がかかると、疑問自体を忘れてしまう。結果として疑問を疑問のままにしてしまうだろう。気になった疑問を一つ一つノートにまとめて後で本で調べる人はそういない。

 だが安易に答えを調べない方が、「考える力」は育つのではないだろうかと思ってしまう。もっと言えば、仮説を立てて検証することが、学問の本来のあり方なのではないだろうか。

 我々が投げかけた質問に対してAIが考えている数秒の間、我々は何を考えているのだろう。仮説を立てる努力を惜しむ人間にはなりたくない。

 なんでも答えてくれるインターネットがある中で、まだ答えがわからない問いを見つけるとうれしくなる。

 私が数年来答えを探し求めているのが、「豆腐にかすがい」ということわざの由来だ。一体誰がなんの目的で豆腐にかすがいを打とうとしたのだろうか。案外こういうところで疑問を投げかけてみると答えが見つかるかもしれない。

漫画ドラゴン桜2 12巻P72『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 12巻P73『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク