
快適な暮らし、美味しい食事、豊かな収入。それでも人は幸福を実感できない生き物だ。遺伝子レベルで刻まれた「ある本能」が、私たちを苦しめているからだ。幸せなのに満たされない原因とは?※本稿は、小林武彦『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
ご飯を食べてよく寝るだけで
幸せになれたはずなのに……
ヒトの「幸せ」、つまり死からの距離の広げ方はどのように変化してきたのか考えてみます。
ヒトの「幸せ」は、他の動物や近縁種であるチンパンジーやゴリラと同じように、「幸せ」の原動力としての生存本能と生殖本能により突き動かされてきました。
チンパンジーやゴリラの行動の大部分は、生存や生殖に結びつけて説明できます。
たとえば哺乳動物によく見られる「じゃれあい」や「スキンシップ」は、ヒトと同様に楽しそう、幸せそうに見えます。実際に楽しいのかもしれませんが、これらには相手に危害を加えないことをお互いに確認し、緊張感の緩和や信頼関係の構築にもつながり、結果的に死からの距離感を大きくする役割があります。
ヒトの身体的な「幸せ」、つまり身体的な死からの距離を最大限大きくする方法は、当たり前ですが、きちんと食べること、しっかり寝ること、スッキリ排泄すること、など健康的な生活を送ることです。
当たり前すぎて見失いそうになりますが、災害などで、このどれかができなくなると途端に死の恐怖が襲ってきます。つまり死からの距離がぐっと近づき、「幸せ」感が激減するのです。
しかし、先進国に暮らす現在のヒトの多くは、必要最小限の衣・食・住では不十分でしょう。