「自分の好きを知る」ことで、「本来の自分」を取り戻していく
――「自分の好き」を知るって当たり前のようでいて、実は難しかったりしますよね。
さわ:意外かもしれませんが、「好きなことを探す」って、すごく小さなことでいいんです。
たとえば、飲み物を選ぶとき、「何が飲みたい?」と、自分に問いかけてみる。水が飲みたいのだとしたら、冷たい水か、ぬるま湯か、常温なのか、そういうところまで見ていきます。
そんなふうに、日常の中で自分の感覚に意識を向けることが「自分を大切にする」ことにつながっていきます。
さらに、好きなことをすることは、「自分を肯定する力」を育てることにもつながるんです。
本書にも「好きなことをしていると、自尊感情が高まる」(p.30)とありますが、本当にそのとおりだと思います。
周りがどう思うかよりも、自分がどう感じるか
――そういう小さな選択でも、自分に意識を向ける練習になるんですね。
さわ:そうですね。「好きなことをやろう」と言っても、「自分の好きなことを仕事にする」といった大きなことじゃなくて大丈夫です。
たとえば服を選ぶときは、周りがどう思うかではなく、自分が快適に感じるかどうかなど、「相手の居心地」より、「自分の居心地」を大切にしてください。
私も出産後は、マタニティレギンスしか履いていません(笑)。でも、それが今の私にとっての「心地よさ」なんですよね。
「人生の幸せ」は「どれだけ自分で決めてきたか」にかかっている
――たとえ小さなことでも、「これでいいのかな?」と人の目が気になって、自信を持って選べない人もいそうですね。
さわ:人生の幸せは、「どれだけ自分で決めてきたか」に深く関係しています。
自分で選んだ道なら、たとえ失敗しても納得できるし、またやり直せます。
でも、「親に言われたから」とか「周りがこうだから」といった理由で選んだ道だと、うまくいかなかったときに、「自分の人生じゃなかった」と感じてしまうんです。
――つい「周りに合わせたほうが楽かな」と感じる方も多そうです。
さわ:そうですね。ただ、私の著書『子どもが本当に思っていること』にも書きましたが、幸せな人生にしたかったら、「自分の山」を登ることが大切なんです。
お母さんの山でも、友だちの山でもなく、自分の山。他人の山を登っていると気づいた時点から、自分の山を登っていけばいいんです。
「自分の人生を生きる」とは?
――「自分の山を登る」には、何を意識していけばいいんでしょうか?
さわ:『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』にも書いてありますが、まずは、自分の「やってみたいこと」や「心地いい」と感じることに、時間やお金を使ってみてください。それが、「自分の人生を生きる」ことの一歩になると思います。
――自分の好きなことややりたいことのために、時間とお金を使うことが大切なんですね。
さわ:そうですね。楽しそうに生きている人って、「ちゃんと自分の感覚を大事にしている人」なんです。自分にとって何がフィットするかを丁寧に選んでいく。そんな積み重ねが、自分の人生を歩むということにつながっていくんです。本書も、そうした視点に、そっと気づかせてくれる一冊だと思います。
(本稿は『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に関する書き下ろし特別投稿です)
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師
1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(以上、日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。