「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」「なんだかチームがワークしていない」「上司が何を考えているのかわからない」……あなたの職場はこんな悩みを抱えていないだろうか。今や多くの職場で“当たり前”となった1on1。2017年に発売されて以降ベストセラーとなった1on1の入門書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔・著)は、ヤフーが実践してきた対話手法について、今日から実践できる内容が満載だ。本記事では、「誰も教えてくれない、職場におけるリーダーシップのあり方」について、著者の本間浩輔氏に伺った。

職場で出世する人は「リーダーシップを発揮」しない。では出世する人は何をしている?Photo: Adobe Stock

●リーダーシップは「演じる」もの

 出世する人と、どこかで止まってしまう人の差がどこにあるのかと聞かれたら、私は「大きな組織を見られるかどうか」だと思います。

 いわゆるプレイングマネージャーでいられるのは部下がせいぜい4~5人のうちです。その時点では、全部自分で情報を集めて、自分が最後に判断する。チームの成果も、自分が背負ったほうが早いし、安心です

 でも、部下が10人、20人と増えていくと、もうそのやり方では回らなくなります。

 だから必要になるのが、「リーダーシップの演じ分け」です。

 よく「リーダーシップを発揮する」って言いますよね。でも私は、リーダーシップは「演じる」ものだと思っています。その場その場で、今ここに最も必要な役割を、自分がちゃんと“演じる”こと。これができる人が、上に行ける人です。

 自分がこれまで評価されてきたやり方――たとえば率先垂範――にこだわって、それだけで押し切ろうとする人がいます。でもそれは、自分の型を押しつけているだけ。

「俺はこれでやってきたから、これからもこのスタイルでいく」というやり方では、組織の壁を越えていくことはできません。

●「部下のせい」は責任放棄

「◯◯さんらしいリーダーシップ」なんて言葉がありますが、それはただの自己満足です。“自分らしさ”を貫くことがリーダーシップではありません。

 大事なのは、目の前の部下が成果を出すために、自分がどう振る舞うべきかを考えること。そういう視点を持てるかどうかで、マネジャーとしてのレベルが変わってきます。

 そのためには、当然ながら部下のことをよく知らなければいけません。

「どうすればこの人が動くのか」「何を苦手としているのか」を知らずに、適切なリーダーシップなんてとれるわけがないんです。

 だからこそ、1on1のような機会で、地道に対話を重ねて情報を取りにいく。同時に上司自身のこともわかってもらう。これは絶対にサボっちゃいけない仕事です。

 部下のことを知ろうとせずに、「成果が出ないのはアイツのせいだ」なんて言ってる上司がいたら、それは自分の責任放棄です。出世する人は、そういう人ではありません。

 自分のスタイルに固執せず、状況に合わせてふるまいを変えられる人。

 自分の“型”を押しつけず、目の前のメンバーのために“演じられる”人。

 そういう人こそが、組織の中で次のステージに上がっていくのだと思います。

(本記事は、『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』に関連した書下ろし記事です)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。