「仕事がしんどいのは自分だけじゃなかった。心底、救われた」
そんな読者の声が大量に集まっているのが、NewsPicksパブリッシング創刊編集長が書いた『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』です。
本書は、双極性障害と診断された著者が、どのような日常を送っているかを記すところから始まります。パッと見では「元気」にも見えてしまうからこそ、周囲の理解を得るのがなかなか難しい。ちょっと想像しながら読んでみてください。(構成/ダイヤモンド社・今野良介)
「擬似おじいちゃん状態」
僕はうつのどん底から抜けた後も、ずっと完治していない。双極性障害という脳の機能障害を発症してから早3年、症状がなくなる気配はない。
双極性障害は、ひと昔前は「躁鬱病」とも呼ばれ、世間的にはハイな躁とローなうつの激しい波を繰り返すイメージが強い。ただ、脳の不具合は本当に人それぞれで、僕には躁状態はあまりなく、「ずっとうっすらうつ」状態で元気がない。
以前と違って脳がすぐ疲れるようになり、仕事、読書など何かをするとぐったりしすぐ横にならなきゃいけなくなった。
僕はいまの自分の状態を、周囲に「擬似おじいちゃん状態」なのだと説明している。
実際、自分のことを「80代のおじいちゃんが、特殊メイクで30代の人間に扮して生活しているみたいだな」とよく思う。

それと、なぜかわからないが、僕はいま人の目を見ることができない。だから外で知人とバッタリ会ったりすると、ずっと伏目がちにアリでも見ながら話すこととなる。
心身の調子には波があり、悪いときはよく「原因なき不安」に襲われる。原因になるようなことは何もないのに、そうわかっているのに、脳から不安物質がドバドバ出て落ち着かない。
最近知ったのだが、物理的に「痛い」ときに活性化する脳の部位と、言葉で傷つくなど「こころが痛い」ときに活性化する部位は同じらしい。僕が「原因なき不安」に襲われているときは、脳の誤作動からかずっと「こころが痛い」状態が続く。
僕はこれを「こころの出血」状態と呼び、妻に「血が出だした」とか「あ、止まった」とか、状態を伝えている(一見、元気そうに見えるのが悔しいところだ)。
症状のうち、もっとも困っているのは、人と話すのが格段に大変になったことだ。僕は基本的に、昔も今も人と会って話すのが大好きだ。ただ、以前に比べ、一気に体力が削られる。
ひと言で言えば、今の僕は何をするのもしんどい。何もしなくてもしんどい。
両手両足に「誰の目にも見えない鉄球」が鎖でつながれているようなイメージだ。
鉄球を引きずりながらでも、少しの間なら誰かと並んで歩くことはできる。ただ、長く歩き続けることは難しい。そして歩き終えた僕はひとり、ひっそり体を横たえる。
僕のおじいちゃん的日常は、そんな感じだ。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の内容の一部を編集して掲載したものです)

1988年大阪生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、安宅和人『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)などがある。2025年、株式会社問い読を共同創業。