「買い」と「売り」、どちらが優勢かを見極める
「どうや、ここまで分かったか?『売りたい人』と『買いたい人』が、それぞれの希望価格で列を作って並んでる。それがこの『板』の正体や」
シゲルさんの言葉に、俺はこくこくと頷いた。
「はい、なんとなく…。でも、この注文状況から、次にどうなるかが分かるんですか?」
「ええ質問や。それが一番大事なとこやからな」
シゲルさんはニヤリと笑い、再びモニターを指差した。
「もう一回、住友商事の板を見てみぃ。買い注文と売り注文、全体の株数をざっと比べてみたらどっちが多い?」
「ええと…買い注文の方が多い、気がします」
「せやろ。これは単純に、『この株を買いたい』と思ってる人が、『売りたい』と思ってる人より多いっちゅうことや。株価ちゅうのは、いわば人気投票やからな。買いたい人が多ければ、値段は上がりやすくなる。逆に売りたい人が多ければ、値段は下がりやすい。綱引きと一緒や。買い方と売り方、どっちが力強く綱を引いてるか、そのパワーバランスがこの板でわかるんや」
「厚い板」が示す、株価の壁
「次に注目すべきは、注文の『厚み』や。見てみぃ、3505円のところに、他の価格帯よりどえらい数の売り注文が入っとるやろ?」
言われてみると、確かにその価格だけ注文の桁数が一つ違っている。
「こういう分厚い注文は『壁』になるんや。この場合、『3505円まで上がったら、そこで一気に売って利益を確定させたい』と思ってる大口の投資家がおるかもしれん。せやから、株価が順調に上がっても、この3505円の壁をなかなか突き破れんかったりする。逆に、特定の価格に分厚い買い注文があれば、そこが『底』になって、それ以上は株価がなかなか下がらんかったりするわけや。その壁を突破できるかどうかが、その日の大きな見どころになることもあるんやで」
今日の値動きを予測する第一歩
「つまりやな、この板情報を読み解けば、『今日は買いの勢いが強そうやな』とか、『あの価格帯でいったん、値動きが止まるかもしれん』とか、そういう未来の予測がある程度できるようになるんや」
シゲルさんは、俺の目を見て言った。
「もちろん、これが全てやないで。会社の業績とか、世界的なニュースとか、いろんな要因が絡んで株価は動く。せやけど、今この瞬間、他の投資家たちが何を考えているかを知るための、一番リアルな情報がこの『板』には詰まってるんや」
ただの数字の羅列にしか見えなかった画面が、急に投資家たちの心理戦が繰り広げられる戦場のように見えてきた。シゲルさんの言葉の一つひとつが、株式投資という未知の世界への扉を開いてくれるようだった。
※本稿は、『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。











