生成AIの進化によって「日本語の壁」が崩れた
F: とても恐ろしい話ですが、人はそんなに簡単に動くものでしょうか。
平: 慣れていなければ、簡単に動きます。 特に日本は長く“日本語の壁”に守られてきた側面があった。ところが今、生成AIが自然な日本語を量産できるようになって、言語の壁がほぼ取り払われた。巧妙な文章や動画で怒りを凝縮し、短時間のうちに初動を作る。人は「こんなに反応が付いているなら何かあるに違いない」と思い、錯覚が本物の拡散に変わる。そこが狙われているんです。
F:今回の参院選で、 参政党をめぐる一連の拡散は衝撃でした。背景にロシアが加担していたとの報道もありました。
平: 特定の国名や政党の名は私の口からは言えません。ファクトとして、特定の政党に関する投稿を中心に、不自然な勢いで拡散するアカウント群が存在していたと聞いています。民間の有志がX社に通報し、その結果、X社は自社の規約に照らして複数のアカウントを凍結しました。するとその直後に、関連投稿の量が目に見えて落ちていった。これを偶然と捉えるのは難しいでしょう。通報がなければ、選挙に影響を与えるレベルにまで押し上げられた可能性も指摘されています。
F:獲得議席数は実に14です。影響は十分にあったのではないですか?
目的は「民主主義への信頼を揺らがせ、混乱させること」
平:ここで重要なのは、右だけではなく、左にも張る“両面作戦”が常道だという点です。極端な主張に“初動”を付ける対象は、左右を問いません。なぜそうするのか。どちらが勝つかではなく、社会が分断して民主主義への信頼が揺らげば、目的達成だからです。「混乱そのものがゴール」という発想です。
F: 参政党でもれいわ新選組でも、国民民主党でもいい。共産党でも社民党でもいいわけですね。誰かを勝たせたいというよりも、誰でもいいから社会を荒らせばいい、と。
平:そうです。「政府は信頼できない」「選挙は茶番」という負の感情を広げられればいい。ナラティブ戦(物語の戦い)の本質は、“対象の信頼性”を削ることにあります。「自分だけじゃない。みんなもそう思っている」という錯覚を演出するために、ボットで初動を作る。初速を上げる。プラットフォームのアルゴリズムはそこで欺かれる。人間側のリテラシーだけに頼るのは、もはや現実的ではないのです。