「言葉は短いほど伝わる」できる人が徹底する“削ぎ落とし”の技法とは?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

「言葉は短いほど伝わる」できる人が徹底する“削ぎ落とし”の技法とは?Photo: Adobe Stock

いろいろ言っても相手には伝わらない。ノイズを削ろう

 相手に伝わるようにするために、いろいろ言う。

 でも、いろいろ言っても伝わらない。そんな経験をしたことがある人は多いだろう。

 多くの場面で、いろいろ言うよりも、伝えたいメッセージを一つに絞って一文にして、1メッセージで伝えた方が相手に伝わる。

 それは、なぜだろうか。

1メッセージが相手に伝わりやすい理由は「SN比」にある

 1メッセージは、相手に伝わりやすい。

 1メッセージが伝わりやすい理由は、SN比(エスエヌ比)を大きくできるからだ。

 SN比は、主に情報通信の分野で用いられる概念だ。

 わたしも携帯電話会社で情報通信のエンジニアをしていた頃には、SN比の概念と向き合う日々を過ごしていた。

 SN比を簡単にして説明する。

 Sとはシグナルのことで、相手に意味がある情報のことだ。

 Nとはノイズのことで、それ以外の情報のことで、相手に意味のない情報で、わかりやすく言えば相手にとっての雑音だ。

 SN比とは、SとNの強さの比を意味する。情報通信においては、SN比が大きいと、相手に伝わりやすく、SN比が小さいと相手に伝わりにくくなる。

 SN比を大きくするには、シグナルを大きくするか、ノイズを小さくするか、または、それらを組み合わせるかの三択になる。

なぜ居酒屋に行くと声が枯れるのか

 携帯電話だと難しくなるので、身近な生活のシーンでSN比を考えてみよう。居酒屋での会話でのSN比を考えてみる。

 居酒屋で飲んだ次の日に、声が枯れるのを経験した人は少なくないだろう。その理由は、SN比で説明できる。

 居酒屋では、まわりのテーブルからの声が強く聞こえてくる。すなわち、ノイズが普段よりも強い。

 このため、普段の声の強さで話すと、SN比が小さくなってしまい、相手には伝わらない。聞き返されたりする。

 居酒屋ではまわりのテーブルからのノイズを弱くすることができないので、SN比を大きくして伝わるようにするには、シグナルである自分の声を強くするしかない。

 ただし、その犠牲として、翌日に声が枯れてしまうのである。

伝えるときは「ノイズ」が忘れられがち

 SN比の考え方について理解できたはずだ。

 このSN比の考え方の大事な点は、相手に伝わるにはノイズを減らすことが重要だということだ。

 相手に伝わるようにしようと思うと、伝えようとするシグナルを強くすることを考えがちだ。しかし、相手に伝わるために大事なのは、あくまでもSN比だ。

 シグナルを強くすることと同じくらい、ノイズを減らすことが大事なのだ。しかし、シグナルを強くすることにはみな意識が向くが、ノイズを減らすことは見落とされがちなのだ。

1メッセージは、究極にノイズを少なくできる伝え方

 このSN比の考え方に照らして、1メッセージがより伝わりやすい理由、特に相手にとって大事なときには、1メッセージがなによりも伝わりすい理由を考えてみよう。

 1メッセージで伝えたいときの多くは、相手にとっても大事な場面だ。

 相手にとっては、大事な場面だからこそ、心理的な負荷が高くなっている。

 そのような状態のときに、SN比が小さい伝え方で伝えるとどうなるか。

 相手は負荷がすでに高いため、ノイズの海からシグナルを取り出すような余計な高負荷の情報処理はできないか、そもそも諦めてしまう。

 すなわち、相手に伝わらなくなる。

 相手にとって大事なときで、相手の心理的な負荷が高まっているときには、普段よりもさらにSN比が大きい伝え方をしないと伝わらないのだ。

 もちろん、シグナルは強くすべきだ。

 しかし、居酒屋での会話で声が枯れるように、シグナルを強くするのには限界がある。このため、相手にとって大事なときに相手に伝わるかは、ノイズをいかに小さく抑えられるかにかかっているのだ。

 だから、1メッセージなのだ。

 1メッセージは、メッセージを一つに絞って一文にしたものだ。あらゆる伝え方の中で、究極にシンプルな伝え方だ。

 1メッセージはあらゆる伝え方の中で、最もシンプルであるため、工夫次第で最もノイズを減らせ、最もSN比を大きくできる伝え方なのだ。だから、相手にとって大事なときには、1メッセージがなによりも伝わり、最強の伝え方になるのだ。

1メッセージは、相手想いの伝え方だ

 相手の心理的な負荷に想いを馳せよう。

 そして、究極にシンプルで、ノイズが圧倒的に少なく、SN比が大きいことが最大の特徴である1メッセージで伝える。

 相手の心理的な負荷が高いときであっても、相手は楽に情報処理することができる。結果として、自分の考えが相手に伝わるようになるのである。

(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)