大量のカンニングをするAIに
人間が勝つのは至難の業

 以上、テキスト生成AIが作成した文章を読んでみてどう思われたでしょうか。

書影『読み手に届く文章技術』読み手に届く文章技術』(石黒 圭、筑摩書房)

 ChatGPTの生成する文章の質の高さに驚き、これならば自分が書く文章よりはるかに質が高いので、これからはChatGPTに任せたほうがよいと考えた方もいるかもしれませんし、ChatGPTはたしかにそつなく文章を書いてはくるが、その内容は通り一遍で面白みに欠けるから、自分が使うことは今後もなさそうだと感じた方もいるかもしれません。

 つまり、自然な表現の文章をそつなく生みだせる半面、内容は常識的で深みに欠ける印象を与えるのがChatGPTの文章であり、それがChatGPTの長所であり短所でもあります。

 なぜ、ChatGPTはそうした特徴を持った文章を生みだすのでしょうか。

 それは、テキスト生成AIの仕組みがそうなっているからです。そこで、テキスト生成AIがどのような仕組みでできているかを考えてみましょう。

 テキスト生成AIのベースになっているのは、大規模言語モデル(Large Language Model)です。大規模言語モデルは、大量のテキストデータを学習し、高度な文章理解や文章生成ができる人工知能です。

 その1つ目の特徴は、Web上の膨大なテキストデータを学習している世界一の知恵者だということです。

 膨大なテキストデータは、現代に至るまでの過去の膨大な人間が書き残した文章を集めた人間の知恵の結晶ですので、大規模言語モデルは世界中の誰よりも物知りで、あらゆる分野に広範な知識を持っています。

 その2つ目の特徴は、先行文脈を解析し、次に来る言葉を高速かつ高精度で計算する計算機だということです。

 仕組み自体は比較的単純で、先行文脈の単語をその共起関係や位置から多次元のベクトルとして数値化し、そのあとに続く確率の高い言葉をひたすら計算しつづけて文章を生成します。そのような高速かつ高精度の計算を可能にしている背景には、ディープラーニングを活用したトランスフォーマーと呼ばれる技術があります。

 つまり、テキスト生成AIは、Web上の膨大なテキストデータに基づき、先行文脈から後続文脈を確率的に計算して言葉を生成する、ただそれだけの比較的単純なモデルです。

 しかし、そこから生成される文章がおそろしく精度が高く、適切な指示さえすれば、たちどころに何でもやってしまう有能なAIなので、人間の考える力や仕事を奪ってしまうのではないかと恐れられているわけです。