
スマホは便利だ。でも、ときどき心が落ちつかない。デジタルデトックスという言葉も広がったが、いまやスマホを完全に手放すのは現実的ではない。つながりたくなくてもつながってしまうこの時代に、心の平穏をどのように守ればいいのか?その手がかりを、哲学者と一緒に考えていく。※本稿は、谷川嘉浩『スマホ時代の哲学「常時接続の世界」で失われた孤独をめぐる冒険【増補改訂版】』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・編集したものです。
便利すぎる生活が
ひとりの時間を奪っていく
私たちは自分の生き方を見つめ直すときなどに、自分と対話し、思考することが必要です。つまり、たまには孤独を確保したほうがいい。しかし、現代においてそれが困難になっていることも確かです。
現代では、様々なテクノロジーやサービスによって体験が効率化されています。
2022年発売のゲームからポケモンに実装された「おまかせバトル」(半自動の経験値稼ぎ)、テーマパークのファストパス、ECサイトの即日発送、ほったらかし家電、TVerやNetflixなどの倍速機能や10秒スキップ、AmazonやYouTubeなどのサジェスト(レコメンド)機能、交通系ICカードによる支払いなど、様々な時短や効率化の方法があり、いずれも生活の重要な部分を占めているでしょう。
こうした消費環境の変化は、空いた時間を私たちが有効に活用することを前提としていますが、そうした発想自体に問題が含まれています。
「私たちが孤独の恩恵を受けようとしないのは、孤独になるために必要な時間を、活用すべき資源と考えるからだ」とタークル(編集部注/シェリー・タークル。心理学者)は指摘していますが、実際に、私たちは浮いた時間を孤独につながるものとして用いず、別の様々なマルチタスクで埋めてばかりいるでしょう。