「だから」
「なに言ってるかわかんねぇんだよ、ガイジンだから」
言われた。ついに言われてしまった。
私の言い方が悪かったのだろうか。なにか気に障ってしまったのだろうか。お酒でぼーっとしていた頭の血が、一気に引いていくのがわかった。心臓がシンバルのように激しく鳴る。声の震えを抑えようとしたせいで喉が開いて、泣きそうな低い声でやっとひとこと、絞り出した。
「私の言ってること、わかりますか」
「日本人らしく」丁寧に
振る舞っただけなのに
丁寧に話そうとしすぎるのは私の悪い癖だ。友達同士のお喋りでも、私が言葉を選びきれないままモタモタと喋るせいで、それまで温まっていた空気が少し冷えてしまう。私はときどき、いたたまれない気持ちになったが、誰にだって私がそのとき感じていることを桐箱の蓋のように、ぴったりと知ってほしかった。今だって、ただ「真っ直ぐ進んで」とだけ言えば、少々感じは悪くてもはっきり通じたのかもしれない。
私が小さい声でまどろっこしく話したのが、きっとこの人の癪に障ってしまったのだ。
丁寧な人間だと思われたい。日本語が下手だと思われたくない。この国の仲間だと認めてほしい。そんな、他人から見ればあまりに瑣末なプライドは人を苛立たせ、結局は自分の急所に思いきり突き刺さった。こんなことなら、言葉の真意なんて知ろうとしなければよかったのだろうか。好きにならなければよかったのか。惨めったらしく縋りついて、最後に脚で蹴飛ばされた気分だった。なんだよ。結局余所者かよ。返せよ、お前に使った時間。全部。

言葉はただのツールのはずだ。それなのに、どうしてこんなにも美しいのだろう。
私の言ってること、わかりますか。今、どれだけの人が私の言葉を抱き留めてくれるだろう。この世界が真っ暗闇になって、お互いの姿形がわからなくなったとしても、私が選んで口に出した言葉で私だって気づいてくれる人が、一体どれだけいるのだろう。言葉たちへの恋心に混じってしまった数滴の薄暗い疎ましさ。血は今日も心臓を巡り続けて、私は言葉を書いている。もっと知りたい。こんなとき、貴方になんと伝えようか。もっと聞きたい。貴方はなんて言ってくれるのか。
この身体には美しい言葉たちが巻きついて、私はもう、どこへだって逃げられないのだ。