少年法で実名報道が禁止されているのに、なぜそんな事態になったのか。

 答えは、あまりに単純だ。

 法律が変わったのだ。

 18歳と19歳の一部の少年については、実名や顔写真で本人が特定されるような報道をしてもいい。そう少年法が変更されたのである。

「特定少年」。それが少年法の改正後に名付けられた、18歳と19歳の少年のカテゴリーになる。

 少年法は、事件の加害者を特定できるような報道を禁じている。ところが、2022年に少年法は改正された。たとえ少年事件であっても、少年の審理が家庭裁判所から刑事裁判所へと移ることが決まった場合、18歳以上の特定少年については、特例として実名報道を認める、と変更されたのだ。

 法律が変われば、正義も変わる。

 となると、正義とはいったい何なのか、その本質が揺らいでしまう――。

 その典型的な実例だろう。

選挙権を持つ18歳が
子ども扱いでは道理が立たない

 じつは、この「特定少年」をめぐっては、紆余曲折の経緯があった。実名報道解禁は、政権与党である自民党と公明党の不調和によって生みだされた産物でもあるのだ。

 流れは、こうだ。

 そもそもの議論のきっかけは、2016年の公職選挙法の改正だ。それまで20歳からだった選挙権が、18歳に引き下げられた。選挙権を持つ18歳と19歳は、もう大人と変わらない。ならば、18歳と19歳に少年法を適用する意味がなくなるはずだ。そんな理屈のもとに、法制審議会で議論がはじまったのだ。

 だが、少年法の適用年齢をめぐっては、賛否が伯仲。3年半ものあいだ議論がつづいたが、結論がでなかった。

 そして、審議会と同時並行で進んだ政治調整でも、らちがあかなかった。この問題は連立与党を組む自民党と公明党とのあいだでさえ、意見が真っ二つに割れたのである。

〈自民党〉18歳、19歳は大人として責任を持つべき。少年法の範疇ではない

〈公明党〉18歳、19歳は更生する可能性が高い。大人と同じあつかいにするべきではない

 少年法の対象年齢引き下げは、元々が自民党主導で検討された課題だったが、公明党は、18、19歳の健全育成に重きを置き、立ち直りを優先する立場だった。

 本来は肩を組み合うべき相手方が、まったく逆の意見。互いの正義が拮抗するから、どちらも譲れない。そこに上乗せされるように、学識者、日本弁護士連合会、犯罪被害者や遺族からの意見も続出した。残念ながら、満場一致の結論など、出ようはずもなかった。