実態としては大人同様の扱いだが
名目上だけ少年という落とし所に

 3年半の末、この議論で優位になったのは、公明党の考え方だった。

 18歳と19歳には、今までどおり少年法を適用する。成人、すなわち大人の定義は、他の法令とは異なるかたちにはなるが、大枠では従来のままの少年法を維持したのである。

 ただし、自民党も自民党で、簡単には引き下がらなかった。もともと提示していたプランAからプランBに切り替える。たとえ少年法の適用年齢であっても、18歳と19歳については別枠を設けて厳罰化する、と方針転換したのだ。

 その厳罰化の一環として、この少年法改正では、原則、逆送とする事件の対象が広げられた。18歳と19歳の少年については、これまでどおり、殺人など故意に人を死亡させた事件にくわえて、強盗や強制性交、放火など(法定刑の下限が1年以上の懲役・禁固とされる罪)も対象としたのだ。

 このルールにのっとって起訴された18歳と19歳の少年が、「特定少年」だ。そして、まるでこの法改正と抱き合わせのように、特定少年について、限定的に実名報道の解禁が盛りこまれたのである。

 ざっくりいってしまえば、これは玉虫色の政治決着だった。

 そもそも自民党としては、18歳と19歳を成人あつかいにするつもりだったのだから、事件をおこせば、実名報道があたりまえ。一方の公明党も、政治決着には妥協がつきもの。適用年齢の引き下げ阻止、という最大の目的を果たしたのだから、推知報道禁止の解除についてまでは執着しなかった。結局、「実名OK」のルールは、お互いの党の落としどころを探ったさなかに、脇からこぼれおちたような産物なのだ。

 そして適用年齢の引き下げの可否に重点を置いていた肝心の報道機関も、実名報道については、蚊帳の外に置かれたまま深い議論にかかわれなかった。

 こと実名報道の問題についていえば、たいして取沙汰されないまま結論に至ってしまったのだ。

 そして実名報道の解禁の1例目となったのが、この甲府市の放火殺人事件だったのである。