少年法で守られているはずでは…?「放火殺人少年の実名と顔写真」がむきだしにされた理由写真はイメージです Photo:PIXTA

たとえ凄惨な殺人を犯したとしても、加害少年の実名や顔は報道されないことになっている(少年法61条)。ところが、放火殺人事件で3人を死傷させた19歳の「少年A」は、多くのメディアに実名も顔も一斉に報じられてしまった。実名報道が、少年の更生の余地を著しく狭めることに疑いはない。彼が法廷で語った「社会に戻るつもりがない」という言葉は、彼の内から出てきたものか、それとも追い詰められた結果のものだったのか……?※本稿は、川名壮志『酒鬼薔薇聖斗は更生したのか:不確かな境界』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。

事件当時19歳だった男の判決で
裁判長は主文を後回しにした

 2024年1月18日午後2時すぎ。甲府地方裁判所の201号法廷。

 用意された約70席は、傍聴者で埋まっていた。だが廷内は、かたい緊張で静まりかえっている。放火殺人事件の判決のときが、まさに訪れようとしていた。

 黒い法衣をまとった裁判官たちが入廷した。

 着席した三上潤裁判長が切りだしたのは、判決の結論部分ではなく、その理由だった。

 主文、後回し。

 その瞬間。記者席でメモを取る報道各社の面々に、さらに張りつめた空気がただよった。自分がまさに取材しているこの裁判が、この日の全国トップニュースになったことを、理解したからだ。

 言いわたされる判決は、死刑だ。

 主文の後回しが、なぜ死刑の符牒になるのか。

 それは、刑事裁判の慣例が関係する。刑事裁判の判決は、まず主文(結論)を言いわたし、そのあとに具体的な理由を述べるのがセオリーだ。

 しかし、究極の刑罰である死刑の場合は、順序が逆になる。裁判長が、まず判決の理由から述べた後、最後の最後に結論(死刑)を述べる、というのがお定まりなのだ。