振り返りを効果的に行うためには?
問いと運営の工夫の具体例
こうした振り返りを効果的に行うためには、「問い」が不可欠です。KPIを起点に、チームで深い内省を引き出す問いかけの例として、次のようなものがあります。
・この数値が変動した主な要因は何か?
・前回から想定外の動きはあったか?
・この成果を再現・拡大するには何ができるか?
・現場の実感とKPIにズレはないか?
また、会議やミーティングでは次のようなファシリテーションが効果的です。
・発言前に1〜2分のサイレントタイムを設ける
・「なぜ?」を2回繰り返して掘り下げる
・KPIと現場のエピソードをセットで語る
・ネガティブな数値変化も“学びの素材”として歓迎する
こうした問いと運営の工夫によって、KPIは単なる指標ではなく、学びの触媒として機能するようになります。
また、“誰が数字を見るのか?”という観点も重要です。KPIの分析や観察が特定の担当者に偏ると、データが属人化し、学習が組織に広がりません。大切なのは、チームの誰もが“意味ある数字”に自分ごととして向き合える仕組みを持つこと。ダッシュボードを“眺める場”ではなく、“問いを探す場”にする必要があります。
KPIもまた、固定された存在ではなく、学習によって進化するものです。事業フェーズや環境の変化に応じて、見るべき数字は変わります。「このKPIは今も本当に意味があるのか」と問い直すこと自体が、健全な組織の証です。初期に設定したKPIを惰性で追っていないか――この問いを持ち続けられるかどうかが、プロダクトの柔軟性と適応力を左右します。
数字を見る文化とは、数字に従う文化ではなく、数字とともに考え続ける文化です。問いを立て、行動し、また数字を見て問い直す――この「計測→観測→内省→適応」のループを持つ組織だけが、KPIを“意味あるもの”として生かし続けることができるのです。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)