“数字を見る”で終わらせないための
計測・観測と学習の仕組み
では、観測という行為を組織としてどう仕組み化し、日々の意思決定に結びつけていくのか。“数字を見る”で終わらせないための運用と組織文化について考えていきます。
観測の重要性を象徴する実例として、1970年代のインテルやモトローラの意思決定があります。インテルでは、経営層がメモリ事業に注力する一方で、営業や現場の担当者はマイクロプロセッサの需要急増を肌で感じ、正式な方針決定より前に、リソース配分を動かし始めていました。モトローラでも、営業現場の声から「もっと安価なプロセッサが必要」という兆しを技術者が捉え、新たな製品開発の方向性が生まれました。
多くの現場では、数字を見ることが「確認作業」や「報告の儀式」となっていて、KPIの上下を伝えて終わるケースが少なくありません。そこから「なぜ」「何を変えるべきか」という問いや試行錯誤につながらなければ、どれだけ数字を可視化してもプロダクトの進化にはつながりません。
重要なのは、「数字を見たあと、どう問い、どう動くか」です。数字の上下に一喜一憂するのではなく、その背後にある仮説や前提を見つめ直す姿勢が求められます。このような文化を育むために有効なのが、「計測→観測→内省→適応」という4ステップのサイクルです。
・計測:想定どおりに推移しているか?異常はないか?
・観測:何が起きているか?兆しはあるか?
・内省:なぜそうなっているのか?仮説は正しかったか?
・適応:次にどう動くか?どんな実験をするか?
このサイクルを日常的に回し、組織に根付かせるにあたって参考になるのが、IT業界で根付いてきた「Postmortem(振り返り)」の文化です。IT業界では、サービス障害やシステムトラブルの原因や再発防止策をチームで共有するプロセスとして、特定の個人や部署を責めるのではなく、仕組みやプロセスの中にある課題を客観的に探る姿勢を発展させてきました。
そしてこの姿勢は、KPI運用における学習の場でも活用できます。例えば、ある指標が急上昇/急落したときに、成功・失敗を問わず、変化の背景を言語化することでナレッジが蓄積されます。KPIの動きを1人で解釈して終わりにせず、チームで意味を議論すること自体が、次の行動への納得感を高めるのです。