「計測」とは、あらかじめ、何をどのように測るかを決めて追いかける行為です。月間アクティブユーザー数(MAU)やコンバージョン率(サービスを利用した人のうち、実際に申し込みや購入などの行動につながった割合)、継続率、成約率など、戦略や仮説に応じて設計された指標がその典型です。

 一方、「観測」とは、何が起きるか分からない中で、予想外の変化や兆しを捉える行為です。例えば、ある日突然、特定の機能の利用が急増したり、あるセグメントのユーザーが深夜帯に集中してアクセスし始めたりといった、事前に設定されていなかった変化がこれにあたります。

「計器」を見るか、「変化」を見るか
車の運転に例えたKPI

 この違いを、また車の運転に例えてみましょう。スピードメーターや燃料計などの計器を見るのが「計測」だとすれば、「ハンドルが少し取られる」「エンジン音がいつもと違う」といった変化に気づくのが「観測」です。事前に測ろうと決めたわけではなくても、状況の異変を感じ取ることで、異常を察知したり、事故を未然に防ぐ手がかりになったりします。

 戦略的に設計したKPIでは順調と見えていても、ユーザーサポートへの問い合わせ内容が変化していたり、フィードバックに新しい要望が増えていたりすれば、それは変化の兆しかもしれません。数値化されたKPIの背後で、何が起きているのか。そこに意識を向けられるかどうかで、プロダクトの学習力と対応力が大きく変わってきます。

 計測と観測は補完関係にあります。どちらか一方では不十分であり、両方を組み合わせることで初めて、プロダクトや事業の“今”を立体的に捉えることができます。

 設計されたKPIは、登山に例えれば事前に準備した地図や山行計画に相当します。しかし、それを見ているだけでは登頂という目的を達成するには不十分です。実際の登山で風や地面の状態、他の登山者の様子といった、現地の変化を観測することが重要であるように、プロダクト開発でも現場で起きているリアルな変化に目を向けなければ、重要な兆しを見逃してしまいます。観測と計測の視点を両方持ち合わせることで、変化に強く、しなやかな意思決定ができるようになるのです。

 そしてこの「計測→観測→仮説の修正」という往復運動こそが、プロダクトを学習させ、進化させるサイクルの原動力になるのです。