後回しになりがちな夏休みの自由研究。まだ終わっていないお子さんもいるのでは?
でも、たった半日あれば、面白い自由研究はできる。特別な準備は不要、今日からできる自由研究のやり方があるのだ。
その方法を紹介しているのが、『デイリーポータルZ式 自由研究 ENJOY BOOK』(アリス館)。
身近なテーマを深掘りする記事を23年間掲載しつづけてきたウェブサイト「デイリーポータルZ」のノウハウを、ライターの井上マサキ氏が子ども向けにわかりやすくまとめあげた。
今回話を聞いたのは「今からでも自由研究は間に合う!」と語る、デイリーポータルZのウェブマスター・林雄司氏。
聞き手は『みのまわりの謎大全』(ダイヤモンド社)著者で、デイリーポータルZの愛読者でもあるネルノダイスキ氏だ。(構成/末松由・金井弓子)

ネルノダイスキ(左):漫画家・イラストレーター。アーティストとして絵画や立体作品の展示を行うかたわら、2013年よりネルノダイスキ名義で漫画を描きはじめる。2015年、同人誌『エソラゴト』が第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で新人賞を受賞。2017年、同人誌『であいがしら』が第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員会推薦作品に選出された。著書に『いえめぐり』(KADOKAWA)、『ひょうひょう』『ひょんなこと』(ともにアタシ社)がある。
「身近なもの」ほど面白い! デイリーポータルZの目の付け所
ネルノダイスキ(以下、ネルノ):『デイリーポータルZ式 自由研究ENJOY BOOK』、すごく面白かったです!
この本は、林さんが運営しているウェブサイト「デイリーポータルZ」発の書籍ということですが、改めて、デイリーポータルZってどんなサイトですか? 僕も読者なんですけど、一言で説明するのが難しくて。
林雄司(以下、林):どんなサイトかっていうと…なんだろうな……。こういうサイトを作るぞってコンセプトを決めて作ってないんですよ。
でも、ライターや書き手が面白いと思うことを紹介する。自分が見つけた面白いと思うことをわかりやすく説明するっていうのは基本線かな。
ネルノ:たしかに、結構半径1キロ以内に存在する身近なテーマについて書いているライターさんが多いですね。煮魚から骨格標本を作ったり、ゴミ捨て場の看板を観察したり。逆に、壮大な企画はあまりないかもしれない。例えば、海外に行くとか。
林:ネットでいろんな情報が手に入るようになって「珍しさ」がインフレしちゃってるんですよ。遠くの場所に珍しいものがあるって当たり前のことだから、あんまり面白がってもらえない。あと、がんばって「3D画像を作りました!」とか言っても、みんなもうハイレベルな技術に慣れちゃってるから驚かれません。
むしろ、身近でありふれているけど、誰か個人にとって猛烈に面白いものの方がウケる。「うちの近所にこんなのぼりベース(のぼりを立てる台)があります!」とか。人が一生懸命「ほら、これ面白いでしょ!」って言ってると、気になるじゃないですか。
だから、デイリーポータルZでは「身近で面白いもの」を紹介することが多いんです。
半日ねばれば「面白い」は見つかる
ネルノ:たしかに、それはすごく大きな特徴ですね! 取材にあまりお金がかからなそうなのもいい(笑)。
林:それをルールにしてるわけじゃないですけど、自然とそうなりますね。
ネルノ:でも、手間がかかってる感じはします。
林:手間はね、かかってますね。ライターさんには「記事の取材は半日以上ねばってください」って伝えてます。
何かを探す企画で、30分だけ探して「なかったっすー」とかだと、記事を読んでる人にもバレちゃうので「もうちょっと続けてもらえませんか」って言います。
でも最近は凝り過ぎる人が多いから、「もういいです」って言うほうが多いですね。
ネルノ:取材に時間をかけすぎるのもダメなんですか?
林:ダメではないんですが、半日とか、1日でいいと思ってます。なんか、半日以上あるとそれが目的になりはじめちゃうから。
大事なのは、書き手が「楽しんでいる姿」を見せることなんです。人が楽しそうだと気になるでしょ。だから、時間をかけることよりも「自分が心からやりたいことをやる」方が重要です。
デイリーポータルZの面白さの秘訣をまとめたら、自由研究の本になった
ネルノ:デイリーポータルZには独特のノウハウみたいなものがたくさんありますね。そして、それを子どもの「自由研究」のノウハウに転用したのが『デイリーポータルZ式 自由研究 ENJOY BOOK』ということですか?
林:そうです。デイリーポータルZでやっていることって「自由研究」なので。
ネルノ:ということは、夏休みの残り半日でも面白い自由研究はできちゃうってことですか?
林:できますね。企画によっては、3時間くらいでもできちゃうんじゃないかな。「納豆を一万回混ぜる」という記事があるんですが、納豆を混ぜるのにかかった時間は1時間40分でした。でもたくさん読まれましたよ。
ネルノ:まだ間に合うのは嬉しいですね! 最終日に大急ぎで自由研究をする子ども、けっこういるんじゃないかな。
なんでこのタイミングでこの本を出そうと思ったんですか?
林:それは、頼まれたからなんですよね(笑)。担当編集の末松さんから「子ども時代、自由研究が憂鬱だったので、楽しくできる方法を本にしたい」と言われて、やってみようとなりました。
ライターの井上マサキさんが、自由研究のアイデアをかんたんに発想するための「自由研究レシピ」を開発してくれて、自由研究に苦手意識がある子どもでもワクワク取り組めるような内容になっています。
けっこう手がこんでいるので、制作には時間がかかってしまって。2022年11月に依頼を受けて、完成までに3年近くかかりました。

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ネルノ:本作りって時間がかかりますよね。制作期間中に世の中の常識とか情勢が変わってしまって、困ったことはありましたか?
林:ChatGPTの登場でインターネットの調べ方が変わったりはしましたが、ほかはあまりないかな。デイリーポータルZは今年23周年なんですが、やっていることはずっと変わっていないんですよ。
ネルノ:それはすごいことですね!
林:デイリーポータルって、意図的に素朴な素材をわざと使うんです。石とかダンボールとか。はやっているドラマを題材にするときは、あえてそれを影絵にしちゃうとか。わざとアナクロなものを持ってくるんです。
ネルノ:言われてみれば「工作」って感じの記事が多いような。そういうほうが面白いからなんですか?
林:面白いからですね(笑)。3Dプリンターで作っちゃうと面白くないんですよね。
ネルノ:たしかに。ちょっとうまくいかないから、なんか面白いっていう。
林:そうなんです。うまくいっちゃうと面白くないんですよ。すごいんだけど、笑えない。みんな、失敗してがっかりしている人を見るのが楽しいんですよ(笑)。
ネルノ:スマートになりすぎると、面白みが消えてしまうんですね。絵を描いていても、そういう現象はあります。うまくなりすぎてしまって、味のある感じが消えてしまったりとか。自由研究も同じですか?
林:そうそう、失敗してもいいんです。「失敗した!」って書くことが大事なので。
ネルノ:半日で終わるし、失敗してもいい。それでも面白い自由研究ができるっていうのはすばらしいですね! デイリーポータルZが23年間もやり続けていることなので、信用できます。
林:そう思って、楽しく『自由研究 ENJOY BOOK』を読んでもらえたら嬉しいですね。
※本稿は『デイリーポータルZ式 自由研究 ENJOY BOOK』(アリス館)に関する書き下ろし対談記事です。