2025年8月1日に発表された雇用統計における、
過去2カ月分の雇用者数の下方修正幅

米雇用統計のサプライズに要注意、1次集計と季節性にわな、不法移民のかさ上げ効果も影響

 2025年8月1日に発表された米雇用統計は、金融市場にショックを与えた。5~6月分の雇用者数が合計で25.8万人も下方修正され、雇用市場の停滞が突如としてあらわになったためである。

 この発表を受け、金融市場は米国の景気後退リスクを織り込み始め、FRB(米連邦準備制度理事会)による早期の利下げ期待も強まった。しかし率直に言えば、金融市場で最も注目度の高いこの雇用統計は、絶対視できるほど信頼性の高い統計ではない。

 その証拠に、ちょうど1年前を振り返ろう。24年8月2日に発表された米雇用統計も極めて弱く、「令和のブラックマンデー」の引き金の一つとなったことは記憶に新しい。FRBは慌てて9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で50ベーシスポイントの利下げを実施した。ところが、10月4日に発表された雇用統計は一転して劇的な強さを示し、景気懸念は雲散霧消したのである。なぜ、雇用統計はかくも信頼に足らないのか。

 第一の理由は、集計上の問題だ。1次集計時点でのデータ収集が不十分であれば、それだけ翌月・翌々月の改定幅が大きくなってしまう。今回のケースが、これに該当する。加えて、第2次トランプ政権下で設立された政府効率化省(DOGE)が連邦政府職員の大量解雇を進めてきた。雇用統計の質に影響が及んでいる可能性も指摘される。

 第二の理由に、季節調整の不完全性がある。リーマンショック後もしばらく「残存季節性」が問題視された。これは機械的な統計処理が、リーマンショックの影響を一部、季節要因として算入してしまうことで生じる問題だ。同様の問題がコロナ禍後にも発生していることは想像に難くない。昨年の混乱も、この残存季節性が影響した可能性がある。

 さらに補足すれば、米国で雇用者数の伸びが鈍化していることは、驚くべきことでもなければ、景気後退の兆候でもない。バイデン政権時代には年間で最大240万人もの不法移民が流入し、雇用者数を押し上げる要因となっていた。裏を返せば、不法移民対策を厳格化した今、その「かさ上げ効果」が消失することは当然の帰結である。

(みずほ証券 エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)