「言いたいけど言えなかったことを明確に言語化してくれた本」
そんな読者の声が多数集まるのが、NewsPicksパブリッシング創刊編集長・渾身の初著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』だ。
本書から、なぜか若干詰められ気味のニュアンスで一度は聞かれた「あなたのやりたいことは何?」という質問のおかしさを暴いた一節を紹介する。(構成/ダイヤモンド社・今野良介)
「あなたのやりたいことは何?」
職場において数多く繰り返されるこの質問。
そこには、「外の状況に影響されない『私は私』的人間であるべきだ」という一貫性の規範が、そして「指示待ちではなく、ブレない『やりたいこと』という目標を持つべきだ」という能動性の規範が、暗黙のうちに含まれている。
質問を受けた側もその暗黙の前提を察するので、「やりたいことはとくにありません」という受け身な姿勢は見せるべきじゃない、と考え言葉をひねり出す。
けれど、間違っているのは「やりたいこと」と「あなた」を直線的に結び、「いつ・どこで・誰と」をまったく考慮しない質問のほうにあるはずだ。

結局、どこまでいっても、人間は外との関係性の上にしか存在できない。
「いつでも、どこでも、誰とでも変わらない私」であるべきだという規範は現実離れしているし、実際、そんな人はどこにもいない。
実現しようがない状態を、全員がうっすらと「目指さなくちゃ」と感じている。
この状況は、奇妙だ。
「自分に周囲が期待してくれることをただがんばるだけです」
これらは、多くの組織において思ってもなかなか言えないことだろう。
でも、言えてもいいんじゃないか。関係性のなかで人間を捉えるなら、そんなに不思議な言葉じゃない。
本当は、気軽にこう口にできるといいのだけれど、感情的衝突をなんとしても避ける文化で育った僕たちは、そのうまい伝え方がわからず、今日もなかなか言えないでいる。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の内容の一部を編集して掲載したものです)

1988年大阪生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、安宅和人『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)などがある。2025年、株式会社問い読を共同創業。