「心底、救われた」そんな読者の声が大量に集まる、NewsPicksパブリッシング創刊編集長の初著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』。
本書から、「評価されにくいが大切な人」と「評価は高いが問題ある人」の話を紹介します。あなたの周りにも、そういう人がいませんか。(構成/ダイヤモンド社・今野良介)
「触媒」のような人
僕は以前、Fさんという人と一緒に働いていた。
彼女は、メンバーのなかではかなり無口だった。ただ、いつもニコニコ話を聞いてくれるので、僕はなんだか自分が話し上手になった気がして、つい張り切って話してしまう。
他の人も似たように感じていたようで、Fさんがいるとみな少しだけ饒舌になるのだった。なぜだか会話が弾む。でもFさんは自分から話すわけじゃない。
この場合、Fさんには「コミュ力」があるのだろうか。きっとそうは評価されないだろう。でも本当に職場において必要なのは、Fさんのような存在なのだ。
僕はこのFさんのような人は「触媒的能力」があるのだ、という考え方を提案してみたい。
触媒とは、化学反応が起きるときに、そのもの自体は変化しないけれど、周囲の反応を促進する物質のこと。触媒的能力とはつまり、「その人が何をなしたか」じゃなく、「その人が周囲の人に『何をなさせたか』」に注目する考え方だ。
触媒的能力がマイナスの人
逆に、多くのビジネス書に書かれているのが、「スキル(≒能力)重視で人を採用すると、組織が崩壊する」という警句だ。本人のスキルは高いのだが、周囲のパフォーマンスを下げるような「触媒的能力がマイナスの人」は一定数、存在する。
他人を目標達成のための手段としてしか見ていないなど、メンバー間の関係性を破壊してしまうようなこれらの人を、僕はこれまで敏感に警戒し、避けてきた。

能力は個人という「点」ではなく、場という「面」で見ないといけない。
この「触媒的能力」という考え方には、僕がうつになって双極性障害と診断され、「弱くなった」ことも影響している。復帰する直前、僕はまたしてもアクセルを踏みまくってしまうことを恐れ、こう自分に言い聞かせていた。
「もう、強くて優秀なリーダーは目指さない」
「これからは、強くて優秀じゃなく、『弱くてごきげん』でいこう」
ごきげんは、「触媒的能力」そのものだ。ごきげんなだけで、周りの人は働きやすくなる。
逆に、どの職場にも不機嫌な人はいる。不機嫌そうにふるまうことによって周囲をコントロールしようとしたり、自分の権威や賢さをちょっぴりアピールしたりしている。そして彼らはそのアピールに忙しいせいで、触媒的能力を発揮できない。
一方、ごきげんな人は、アホっぽい。
「あいつは能天気でなんにも考えてなさそうだなあ」と言われる勇気を持ったごきげんな人こそ、触媒的能力の素養があるのだ。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の内容の一部を編集して掲載したものです)

1988年大阪生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、安宅和人『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)などがある。2025年、株式会社問い読を共同創業。