「読んで心底、救われた」
そんな読者の声が大量に集まる、NewsPicksパブリッシング創刊編集長・渾身の初著書
『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考
本書の中から、ビジネスパーソンが「毎年成長し続けなければいけない」というプレッシャーから逃れられない理由を解いた一節を紹介します。(構成/ダイヤモンド社・今野良介)

アンラーンしてリスキリング

かつて、社会はごくゆっくりとしか加速していなかった。職業の変化は数世代に1度のペースでしか訪れなかった。ひいおじいちゃんと自分が同じ仕事に就くことだって珍しくなかった。

それがやがて、一世代ごとに職業が変化するようになり、ついには変化が「世代内」へと侵入し、さらにそのペースを上げている。

ここ数年で市民権を得た「リスキリング」という言葉は、この「世代内変化」が激しくなった現状をとてもよく表している。世代内に複数の職種、複数の職場を渡り歩くからこそ、いつも新しいスキルが必要になる。いつまでも同じことをしていてはいけないというささやきは、法人にだけでなく、個人にも聞こえてくる。

もはや、スキルはいったん獲得したら終わりだとか、あるいは職人にとっての「道」のように、どこまでも突き詰めていくものじゃなくなった。スキルはわざわざアンラーン(リセット)してまで、身に付け直さないといけない。スキルにはいつだって賞味期限付きのシールが貼られていて、時代が加速するほど日持ちしなくなっていく。

メディアは「さらなる変化が訪れる」「どんな変化にも対応できる人間であろう」というメッセージを流し続ける。なにせ事実として変化は加速しているし、人はそれについていかなくてはならない。

そして、そんなメッセージを浴びる個人の側も「いつまでも同じことをしていてはいけない」という規範を少しずつ内面化していくのだ。

時代の変化を歓迎し、その流れについていける人間としてふるまうこと。

それが加速するこの「社会で求められる人間像」であり、そのように自分を律することができることが、現代における「強さ」だ。

いま、

「環境の変化は、あまり好きではありません。同じことをやり続けていたいです」
「自分を成長させていくことにあまり興味はありません」

と、会社のなかで堂々と発言することは難しい。

「毎年成長し続けるとか無理です。転職もしたくありません。アンラーンとかリスキリングとか大変だし同じことをやり続けていたいです」そう言いたいのに言えない“現代的な理由”を言語化したPhoto: Adobe Stock

それは、弱い人間の言うことだからだ。

いや、そういう人間をこそ、この経済化した社会は弱いとみなすのだ。

(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の内容の一部を編集して掲載したものです)

「毎年成長し続けるとか無理です。転職もしたくありません。アンラーンとかリスキリングとか大変だし同じことをやり続けていたいです」そう言いたいのに言えない“現代的な理由”を言語化した
井上慎平(いのうえ・しんぺい)
1988年大阪生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、安宅和人『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)などがある。2025年、株式会社問い読を共同創業。