ドラッカーの言葉にヒントを求めて
赤坂課長は、自室の本棚からドラッカーの著書を取り出した。
何かこういった場合の解決策はないだろうかと何冊かのページをめくる。
まず、目に留まったのは『経営者の条件』の一節だ。
「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない」
――そうだよなあ。佐々木の強みは営業力だ。
ページをめくるとこのようなことも書いてある。
「オペラの舞台監督は、プリマドンナのかんしゃくには我慢しつつも、プログラムに『トスカ』と書いてあればトスカを歌わせなくてはならない」
赤坂課長は、思わず低い声を出してしまった。
――弱みは我慢しなければならないのか……。
ドラッカーは「強みを手にするには弱みは我慢しなければならない」という。
しかし今のメンバーたちは佐々木の言動によって発言が減り、心理的安全性が失われている。なにかよりよくするための策が必要だ。佐々木一人の強みを生かせばよいという話ではないだろう。
もっと違う視点はないかとページをめくっていくと、同書の『どのような貢献ができるか』の章の言葉が目に入った。
「貢献に焦点を合わせることによって、自らの狭い専門やスキルや部門ではなく、組織全体の成果に注意を向けるようになる」
「成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける」
――そうか……。
佐々木は猪突猛進に自分を信じて突き進むところがあるが、他の人のやり方を否定して自分の方法を良しとする。もしかしたら周りを見るということが弱みなのかもしれない。
この「貢献」の視点が得られたらどうだろう。佐々木にとっての「自分の視野」が「チーム」まで含むサイズの視野になったら。
続くページにはこうあった。
「対人関係の能力をもつことによってよい人間関係がもてるわけではない。自らの仕事や他との関係において、貢献に焦点を合わせることによってよい人間関係がもてる。そうして人間関係が生産的となる」
――そうか、「貢献」はメンバーとの関わりを生産的にするのだ。
さらにこうあった。
「われわれは貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、自己開発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な四つの基本的な能力を身につけることができる」
――チームワーク!