過去最悪の水準になった
アメリカとインドの関係
問題は両者の決裂が、単なる個人的な仲たがいでは済まないものになりつつあることだ。
6月の電話から数週間後、トランプ大統領はインドに25%の関税を課すと発表し、さらにロシア産原油購入を理由に追加で25%、合計50%という過酷な関税を課すと発表した。
2024年度、インドのロシア原油輸入量は日量200万バレル近くに達し、全輸入原油の40%超を占めた。アメリカから見れば、これは対ロ制裁を骨抜きにする行為である。
これほどの高関税を課しているのは、アメリカにとって重要な国では、トランプ大統領の盟友であるボルソナロ前大統領の扱いについて抗議しているブラジル、そして首脳どうしが通商交渉とはさほど関係ないところで決裂したインドくらいである。インドへの高関税は明らかに「懲罰的」である。
インド側は「自国のエネルギー安全保障に不可欠」と反論し、国民世論も反米的に傾いた。ニューデリーでは「アメリカの横暴に屈するな」と叫ぶデモが相次ぎ、与党議員ですらトランプ批判を口にするようになった。
インドにはもともと反米的な空気がある。
インドはイギリスの植民地として、独立に苦心してきた。イギリスの制度・文化の影響を色濃く受けてはいるものの、西側の支配に対する嫌悪感が残っている。そのため、社会主義にシンパシーがあり、いまだに親ロ的である。
これまで米印関係がある程度うまくいっていたのは、日本、特に安倍元首相の存在も大きかった。日米豪印がクアッドを形成できた背景には、安倍元首相があくの強いトランプ大統領を他国とつなぐパイプ役に徹していたからであり、トランプ大統領が中心だったらうまくいっていたかどうかは心許ない。
いずれにせよ、米印関係はすでに過去最悪の水準になっている。
ただし、アメリカが厳しい制裁を課したのには、インドがロシア原油を迂回輸出していることがある。インドはロシア産原油を大量に輸入し、それを国内で消費するだけでなく、精製して世界にばらまくことで莫大な利益を得ている。
いわば、インドはウクライナを犠牲にしながら、自国でぼろ儲けをしているわけで、ロシアとウクライナの和平を進めようとしているトランプ大統領からすれば、インドは和平に邪魔な存在である。
このような立場の相違が、簡単には折り合えないほど深刻な対立をもたらしている。