トランプにノーベル平和賞?「妄想」を手玉にとるプーチンの打算とは【元外交官が解説】Photo:Mikhail Svetlov/gettyimages

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって4年目に突入した。プーチン大統領がなぜ今、米トランプ大統領の話を聞くようになったのか。トランプ氏の打算を、手玉に取る可能性の高いプーチン氏。米露のリーダーシップの違いを理解するためには、歴史的な経緯を知ることが不可欠だ。世界97カ国で学んだ元外交官が分かりやすく解説する。(著述家 山中俊之)

トランプとプーチンはウマが合う?

「地震のような政策シフトだ(Seismic Policy Shift)」。米トランプ大統領の対ロシア政策に関して、ニューヨークタイムズがこんな見出しの記事を出した(2月20日付)。ウクライナ戦争の停戦に向けて、トランプ氏がロシアのプーチン大統領の意向を忖度する政策を打ち出している、と衝撃を持って伝えている。

「米国第一」を掲げるトランプ氏と、ロシアの国益を維持拡大することに賭けるプーチン氏。競争を重視する資本主義の権化のようなトランプ氏と、旧ソ連の共産党組織の中で出世してきたプーチン氏。

 経歴や政治的な主義主張からすると、正反対のように見える2人。一方で、2人はどこかウマが合うようにも見える。首脳クラスの会合や外相会談などにも同席してきた筆者の経験として、国のトップ同士の関係というのは、時に化学反応のような、誰も予想できなかった展開が起きることもある。

 しかしながら大半は、双方の国内事情を踏まえた国益、さらには首脳が政治的立場を守るため自分の利益が優先されるものだ。トランプ氏の打算とは何か。

ノーベル平和賞の妄想を抱くトランプ

 トランプ氏は、難易度の高いディールを成立させて、賞賛を浴びることを無上の喜びとしている。このことは、映画『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』でも描かれているとおりだ。米国の大敵であるロシアに対して、ウクライナ侵攻を終結させれば、まさに難易度の高いディールのクリアである。トランプ氏は、ノーベル平和賞をも獲得できるとの妄想を抱いているかもしれない。無論、そんなことは笑止であるが。

 トランプ氏の言動でもう一つ目立つのが、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)へのけん制だ。トランプ氏は、安全保障上の負担を米国に押し付けて、環境や人権問題などを提起するEU首脳を嫌っている。「プーチンというカードがあるぞ」と、EUを追い込んで、米国に有利なディール(米国からの輸入拡大など)を引き出したい打算があるだろう。

 一方のプーチン氏にはどんな打算があるのだろうか。