実際、20世紀に入ると、ウィルソン大統領は第一次世界大戦で「世界を民主主義のために安全にする」と述べ、モンロー主義を脱して国際主義へ踏み出している。その反動として1920~30年代には再び孤立主義が復活したが、冷戦期には「自由世界のリーダー」として国際主義を掲げた。
ただ、それでもアメリカ社会の深層には「過剰な介入を嫌う」という傾向が残っている。
トランプ大統領のMAGAは、モンロー主義に象徴されるアメリカの外交スタイルの系譜を現代に蘇らせたものだ。だからこそ、マスコミが説明するような「トランプ的異質」ではなく、むしろアメリカ政治においては「正統的な外交スタイル」の面を有している。
たとえば、トランプ大統領の「同盟国の防衛負担」「国際機関や多国間合意に懐疑的」「国内産業と労働者を優先」といった政策は、古典的モンロー主義の発想の延長にある。
ただ、トランプ大統領は、それを「大衆動員のスローガン」として成功させたので、唐突に現れた思想のように見えることがあるのだ。
なぜトランプ大統領は
ノーベル平和賞にこだわるのか
ところで、トランプ大統領がノーベル平和賞に並々ならぬ執着を見せているのはなぜなのだろうか。
この点を考えるには、トランプ大統領がMAGAを「アメリカ国内のポピュリズム」ではなく「国際的に認められるアメリカ外交の原則」に昇格させたいと考えていることが重要になる。
モンロー主義は歴史的には「無責任な孤立主義」と批判されることもあるが、上述したように単なる孤立主義ではなく、トランプ大統領にとっては、不必要な戦争を避けつつアメリカの力を維持する「合理的戦略」である。
トランプ大統領からすれば、ノーベル平和賞という国際的権威がMAGAを承認すれば、「アメリカ第一」は単なる選挙スローガンではなく、「世界に通用する大戦略」だと証明できる。
だからこそ、トランプ大統領はインドとパキスタンの停戦を自らの功績として演出し、国際的に評価されようとしているのだと考えられる。