
Photo: Joel van Houdt for The WSJ
【ロンドン】英国人が行列の作法に厳しいことはよく知られている。列に割り込みでもしようものなら、たちまち冷たい視線を送られるか、少なくとも舌打ちは免れない。ただ以前から一列に並ぶとひんしゅくを買う場所が一つある。それはパブだ。
英国では何世紀もの間、一杯やるには、カウンターに直行し、隙間を見つけてバーテンダーとアイコンタクトを取るだけでよかった。
それが今では、一列に並んで順番を待ち、ビールを注文する人が増えている。昔ながらの流儀にこだわる人々はこのやり方にいら立っている。
「私たち英国人は列に並んで順番を待つことが大好きだ。ただ決して並ばない場所がパブだ」。イングランドのシェフィールドにあるパブ「ニープセンド・ソーシャル・クラブ・アンド・キャンティーン」を経営するケリー・マックスウェルさんはそう話す。「時間がかかってうんざりする」
マックスウェルさんは最近、「カウンターの所に立ってください」と書かれた新しい貼り紙を出した。
グラスゴーにある「ドゥルーリー・ストリート・バー・アンド・キッチン」の張り紙は丁寧とは言い難く、「並ぶのをやめろ! カウンターに肘を載せろ!」と命令調だった。同店は「問題が根絶されるまで張り紙は外さない」と述べた。
「キューズパブ」でもこの気持ちは共有されている。キューズパブとは、パブで順番待ちの列を作るという最近の過ちを記録し、さらには終止符を打つことを目指して2022年に立ち上げられたソーシャルメディアのアカウントだ。
この行列反対キャンペーンは学校教員のロッド・トルゥーアン氏という、思いもよらないヒーローが支えている。コーンウォールのパブで客が一列に並んでいるのを見て写真の投稿を思い付いたというトルゥーアン氏は、順番待ちの列は「少々奇妙で、普通の正しい振る舞いではない気がした」と話した。
事態に憂慮した市民は目撃した行列の写真をトルゥーアン氏に送信し、トルゥーアン氏はそれをアカウントに投稿して、パブの名前を世間に知らしめた。キャンペーンは効果を発揮しているという。トルゥーアン氏は「カウンターに行きなよ、そうじゃないとあのアカウントに載せられるよ」と誰かが他の人に注意しているのを偶然聞いたことがあるそうだ。
最近のある日、ウエストロンドンの「ラトランド・アームス」では長い行列が外にまで延びて、バーテンダーのローレン・ホジンズさんをいら立たせていた。
「まったく不便だ」とホジンズさんは言う。「私たちは『次は誰の順番?』と繰り返し叫んで、自分が列の先頭にいると思っている人の注意を引こうとしなければならないから。しかも50%の確率で誰も返事さえしやしない」
ホジンズさんによると、順番を無視してカウンターに直行する人が時々いるそうだ。そういう人たちはそれまで20分も列に並んでいた人から非難されるかもしれないが、必ず真っ先に対応してもらえるという。
「ここはパブで、女子トイレじゃない」とホジンズさんは言う。「確かにここはイングランドだが、並ぶのはやめてほしい」