【人たらしの極意】なぜか信頼される営業マンがこっそり使っていた“最強テクニック”とは?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

【人たらしの極意】営業マンの“最強テクニック”とは?
30年ほど前の、若かりし当時のわたしにはその凄さがわからなかったが、そのあとになってその凄さがわかった伝え方がある。
わたしが大学を卒業して通信会社で働きはじめてすぐの頃、わたしの上司がコンピューターメーカーからの提案営業を受けることになり、わたしも同席させてもらった。
大学を出たてで業界や会社に染まっていなかった当時のわたしには、通信業界に固有の言葉で苦手なものがあった。
それが「トラヒック」だ。
トラヒックとは、英語の「traffic」を指し、通信業界においては、一定時間における通信の量のことを意味する。用法としては、飛び交う通信の量が多い場所や多い時間などは「トラヒックが多い」と言う。電気通信関連の法令などでも用いられており、当時のNTTドコモでは当たり前のように使われていた。
しかし、そのような業界用語としての「トラヒック」を知らない人が英語の「traffic」をカタカタにするなら「トラフィック」だろう。
このため、「トラヒック」という言葉を使うのは古臭いようで、そして、自分の感覚が業界に染まっていって閉塞するようでわたしは苦手だった。かわりに、“自分の言葉”として「トラフィック」という言葉を使いたかった。
苦もなく「トラヒック」という言葉を伝える営業から学んだこと
そのようになかなか「トラヒック」と言えないわたしが上司に同席して参加したコンピューターメーカーとの打ち合わせでのことだ。
会話での最初の一言として、相手の営業マンの方から想定外のメッセージが発せられた。
「最近は御社もトラヒックが伸びていて、うれしい悲鳴ですね」
こんな感じの言葉だった。
下っ端のわたし向けではなく、上司向けの言葉だったので、内容は気にならない。わたしが気になったのは「トラヒック」という部分だ。
このコンピューターメーカーは、汎用コンピューターの会社で、顧客は当然だが通信会社だけではない。日本中のオフィスや家庭が顧客だ。なので、通信業界に染まる必要はないし、その営業の方も通信業界の人ではなかった。
だが、通信業界の人が使い、そして、いま目の前にいるわたしの上司が日常的に使っている「トラヒック」を躊躇なく使っている。「トラヒック」が日常的ではない“変な言葉”だとは相手もわかるだろうに、なんで自分の言葉として「トラフィック」と言わず、そんな変な言葉を使うのだろうかと当時は思ったものだ。
いまではその理由はわかるし、それ以上に、それが素晴らしいなと思える。
「自分の言葉」ではなく、あえて「相手の言葉」を使って伝えることで、相手が自然と情報処理でき、相手に伝わりやすくなるからだ。
シンプルな短い1メッセージでは、相手が理解に負荷がかかるような言葉を使ってしまっては、単に短いだけのわかりにくい一文になってしまう。
人を動かす1メッセージを伝えるためには、相手が自然と情報処理できる言葉を使うべきだ。そうであれば、業界や相手の会社に特有の言葉を使うことで、相手に言葉の変換のための情報処理の負荷をかけずにスムーズに会話することが理にかなっているのだ。
「相手の言葉」で伝えるのが王道だ
実際、その営業の方のそのあとの提案はわたしの上司に刺さりまくり、わたしの上司はそのコンピューターメーカーに最終的に発注を決めていた。
わたしは仕事でもよく、相手にメッセージを伝えるときには、「相手の言葉」を使おうと言うが、たまにこの「トラヒック」の営業の方の話をする。
相手に「伝わる」ように伝えたいなら、「相手の言葉」で伝えるのが王道なのだ。
(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)